第七章
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第七章
「このお店って」
「ああ。それにしても」
「どうしたの?」
「それ以外にも色々あるんだな、ここってな」
店の中を見回しての瞬の言葉である。
「ほら、これよ」
「ああ、これね」
梓は今度は瞬が指差したものを見た。見ればそれはブラウンの犬のぬいぐるみであった。梓はそのぬいぐるみを見てすぐに笑顔になった。
「可愛いじゃない、これって」
「あれっ、犬好きなのかよ」
「そうよ。大好きなのよ」
その笑顔で瞬に答えるのだった。
「家でも飼ってるしぬいぐるみもストラップも大好きよ」
「あっ、俺の家も犬いるぜ」
瞬もまた笑顔になっていた。
「柴犬だけれどな」
「柴犬って可愛いわよね」
「そうだよな。可愛いうえに賢いしな」
二人はそのまま犬の話題を続けていくのだった。
「やっぱり側に居てくれたら凄く有り難いよな」
「そうよね。やっぱり犬よ」
「猫もいいけれどな」
「まあね」
そんな話に興じて店の中で楽しくやっていた。その店の外では相変わらず二人の友人達がそれぞれ窓から覗き込んでいた。
「ムードいいな」
「ああ」
「最高の雰囲気だぜ」
男連中がまず話をしていた。
「何かあいつも思ったよりやるよな」
「っていうか素質あるか?」
「だよな。結構な」
自分達で勝手に納得していた。そうしてそれは女連中も同じであった。店の扉を挟んで男連中の隣にいるがそれでもお互い気付いてはいない。
「梓犬好きだからねえ」
「そうそう。それが功をなしてるっていうか」
「ムードできてんじゃない」
彼女達も彼女達で自分達の内輪で盛り上がっていた。
「このままいったらデートは成功かしら」
「初陣で武勲を挙げる」
「梓もやるじゃない」
こんなことをそれぞれ言いながら店の中を覗いている。ずっと周りには気付いていない。しかしここで彼等に声をかけてきた者がいた。
「あの」
「あの?」
「何ですか?」
「失礼ですがお店から離れてくれないでしょうか」
声をかけてきたのは白いブラウスに黒いズボンとチョッキ、それに蝶ネクタイという出で立ちの男であった。途方もなく大柄でありしかも服の上からも筋肉がありありと見える。顔はそのままハルク=ホーガンであった。少なくとも日本人の姿ではなかった。
「お客様の迷惑になりますので」
「ああ、気にしなくていいからよ」
「空気だと思って」
彼等はそのハルク=ホーガンに対しても何でもないといった口調であった。
「別に店のもの買うわけでも入るわけでもないしよ」
「ただお店の中見ているだけですか」
「では。私の御言葉は聞いて頂けないのですね」
ホーガンはやたらに畏まった声で彼等に尋ねてきた。
「それに関しては」
「だから空気だから」
「石ころでもいいわよ」
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