乱れ混じる想いに
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が持ってきた攻城兵器はバリスタ。
強弩部隊を持つ袁家なら、特大の弩を作る事は予想出来る。射程が余り長くない兵器ではあるが、点に対する威力と精度は折り紙つきである。
「朔夜、真桜、角度計算。こっちの兵器をアレから撃ち出されるモノが届かない範囲まで下がらせろ」
「はいっ」
「にしし、固定しやんで良かったわ。了解やっ」
バリスタを壊さないのか、とは誰も聞かない。
すぐさま動いたのは秋蘭と軍師達。兵器の運用は真桜と秋斗と朔夜に任せ、彼女達は違う仕事の為に動き出した。
近付いてくる兵器を見据えながら、彼はポツリと呟く。
「中国でヨーロッパの兵器だなんて……バカげてるよ、本当に。ただ……火薬が使われんだけまだマシか」
秋斗の声を聞いたモノは、誰も居ない。
赤い髪、黒い髪、兵では無い二人の姿が遠いのによく見えた。片方の女が手に持つ大きな武器からは、投石器対策の護衛なのだろうと直ぐに分かる。
――なんだ……あいつ……?
まだ遠い。近付く赤が気になった。視界から外せなかった。
次第に、じくじく、じくじくと昏いモノが胸の内に湧き上がる。
知らないはずなのに、誰かも分からないはずなのに、彼の拳が湧き上がる感情からギシリと握りしめられた。
視線が絡まると……遠いというのに彼女は口を引き裂いた。
その笑みを見れば、心の中が真黒いタールのように粘りつく。彼はその感情の名を知っている。
顔も見た事の無い少女の事を、彼の心は殺したいと喚いていた。
違和感があった。背中に下がる武器を疎ましく感じた。
ズキ……と頭と胸が痛んで、彼の脳内に一つの光景が浮かび上がる。
紅い髪が舞った血みどろの戦場。
口を引き裂いたのはあの女。
叫びを上げる慟哭と怨嗟の声は、彼のモノでは無かった。
最後にぽつりと、願う声が聴こえた。
彼が歯を噛みしめると同時にその光景は宙に消え行く。
彼女と同じように口角を吊り上げて息を吐き、剣を抜けば、彼は自分が自分である事を僅かに認識出来た。
「張コウ。どうやら俺はお前を生かさなくちゃならんのに……殺したいらしい」
震える声が紡がれる。
自分が誰かも分からない。自己の根幹がズレてブレて曖昧にぼかされる。
つっと流れた一筋の涙は誰の為か分からなかった。
ただ、誰かを想っていた大切な気持ちだけは、嘘ではないと信じたくなった。
耳に吹き抜けた最後の幻聴は、優しくて穏やかで甘いモノだったのだから。
回顧録 〜ヒノヒカリニミチビカレテ〜
夕闇に燃える橙だけは絶対に忘れない。
二人で見た世界が美しすぎて
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