乱れ混じる想いに
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な想いは、これっぽっちも思えなかった。
たった一つの命を燃やして生かしてくれた“彼ら”の話を聞いたから。
たった一度の人生で幸せを掴もうと足掻く皆を見てきたから。
頭がどうにかなりそうだった。逃げ出したくて仕方なかった。
――それでも自分が世界を変えないと、生きているモノ全てを壊しちまう。
だから彼は逃げ出す事も、壊れる事も……決して許されない。
「……戦いたいですか?」
悲哀の滲んだ月の声にも、彼は返答をせず。じっと、敵の居る方を見やるだけだった。
「一人でも多く救えるなら自分も戦いたい……そう、思ってますか?」
もう一度、ぎゅっと手を胸の前で握った月が声を掛けた。
記憶を失った彼が戦うなら初陣となる。敵を殺すのも、部隊を指揮するのも、今回が初めてである。この重要な戦で打って出るには、少しばかり不安が残る。
「戦いにもいろいろありますよ」
今度は穏やかな声が耳を擽った。
兵器を使って戦うのも、策をぶつけて戦を掌握するのも、結局は戦っている事に変わりはない……月はそう言いたい。
頭では理解している……しているのだが、彼の中で暴れる心は喚いていた。
凪と試合をした時の感覚が胸に湧き上がる。目の前に立ちはだかる敵を、彼は求めていた。この想いを飼いならすには、自分が何か出来ているという結果がやはり必要だったのだ。
それは嘗ての黒麒麟とほぼ同じ渇望。洛陽で我慢して我慢して、戦場に安らぎを求めたあの時と似ている。
呆れた。舐めていた。分かって無かった。こんなにも苦しいとは思わなかった。目の前で死に行く人を見れば、こんなにも助けたくなるとは思わなかった。
大きく長く、彼は息を吸って吐く。
胸いっぱいに広がる空気は現代とは比較にならない程に新鮮で、哀しいくらいに爽やかだった。
「うん、そうだな。ありがと、月」
隣に目を向け、ふっと微笑みを零す。ずっと支えてくれる白銀の少女に感謝を向けて。優しく微笑み返した月の笑顔には、荒れていた秋斗の心も僅かに癒される。
――ホント……敵わないなぁ……
荒れ狂う想いの濁流を抑え付ける術が自分より年下の女の子の笑顔とは、なんとも情けない……呆れるが、彼は月が傍に居てくれる事で救われていた。
同時に遠く、二人は敵の居る方を見据えた。
幾分、彼らの後ろに気配が一つ。足運びから相応の力量のモノだと秋斗には分かったが振り向かず、誰か予測した後に背を向けたままのんびりと声を掛けた。
「どうした、妙才?」
春蘭と霞が居ない為に、秋斗が足音だけで分かる実力の人物は秋蘭しかいない。
そのまま彼の隣に並んだ秋蘭は、二人と同じ方を見ながら口を開いた。
「袁紹軍に動きがあったらしい。明日にでも官渡
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