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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その5)
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。俺も釣られたように隣に座るキルヒアイスに顔を向けた。

「その男もそうなのか」
「違う、キルヒアイスは親友だ、私自身だ!」
フレーゲルを睨んだ、彼はこちらを観察するような目で見ている。嫌な目だ、何となく気後れした。
「まあ良い、卿の事だ。私には関係ない」
フレーゲル男爵が視線を逸らすと呟いた。

水を一口飲むとフレーゲル男爵が話し始めた。
「私が少佐の事を知ったのは八年前の事だ。相続問題に絡んで両親を殺された……。愚かな話だ、平民が貴族の相続問題に絡めばそうなる可能性は高い。何を考えているのか……。同情はしなかった」
「……」
また少佐の話だ、やはり今回の一件に彼女が絡んでいる。しかし、一体何が有る?

「その後だった、両親を失った彼女がヴェストパーレ男爵に養われることになったと知ったのは」
「ヴェストパーレ男爵? 男爵夫人のお父上か」
俺の問いかけにフレーゲル男爵が頷いた。
「そうだ、少佐の父親、コンラート・ヴァレンシュタインはヴェストパーレ男爵家の顧問弁護士だった。その縁で引き取られたらしい」

男爵夫人とはそれなりに親しくしている。しかし、そんな話は聞いたことが無かった。もしかすると少佐と男爵夫人は仲が悪いのか……。キルヒアイスも不思議そうな表情をしている。フレーゲルはそんな俺達を見て皮肉な笑みを浮かべた。

「どうやら知らなかったらしいな」
「……それで」
「彼女を初めて見たのはヴェストパーレ男爵の葬儀の時だ。少佐は喪主である男爵夫人の傍にいた。本来ならその場所は男爵夫人にとって最も近しい親族の立つ場所だ。血縁関係の無い、まして平民の彼女が立つ場所では無い。妙だと思ったが相手が男爵夫人だ、そういう事も有るかと納得した」

それが事実だとすれば男爵夫人とヴァレンシュタイン少佐はかなり親しいという事になる。しかし男爵夫人も少佐もそんな事は一言も漏らしていないしそぶりも見せていない……。むしろ故意に触れないようにしているように見える……。またキルヒアイスの顔を見た。キルヒアイスも考え込んでいる。

「卿はヴァレンシュタイン少佐がビッテンフェルト少将の下に配属された理由を知っているか?」
「詳しい話は知らない、……上層部の意向が有ったと聞いているが……、卿は知っているのか?」
「いや、私も知らぬ。よほどの事情が有るらしい。……だが別な事なら知っている」

思わせぶりな口調だ。フレーゲル男爵の顔にはどこか面白がるような笑みが有った。
「憲兵隊に所属していた彼女を艦隊勤務に転属させるためにある貴族が動いた……」
「貴族?」
思いがけない言葉だ。呆然として問いかける俺にフレーゲル男爵が頷いた……。



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