第四章
[8]前話
「それはどうしてだ」
「どうせ貴様は死ぬのだからな」
一人が傭兵に答えた。
「なら答えよう」
「そうしてくれるか」
「それは貴様が只の傭兵であの方は王だからだ」
それが理由だというのだ。
「だからだ」
「王は何もお咎めなしか」
「我等がどうこう出来る方ではない」
「それが理由か」
「そうだ、貴様も火炙りになりたくなかったのなら王に生まれるべきだったな」
実に簡潔にだ、彼は傭兵に言った。
「そうあるべきだった」
「わかった、そういうことか」
傭兵も彼の言葉を聞いて頷いた、そしてだった。
そのうえでだ、補佐の者達に言った。
「ならいい、火を点けろ」
「潔がいいな」
「ここにきてじたばたしてもどうにもなるか」
これが傭兵の言葉だった。
「それならな」
「このまま死ぬか」
「地獄に落ちるか」
「ああ、何を言ってもはじまらない」
実際に傭兵は観念していた、それで腹を括っていた。
そしてだ、燃え盛る火の中で死んでいった。その炎の中にいてだ。
異端審問官は冷徹にだ、補佐の者達に言った。
「運が悪い男だったな」
「はい、全く以て」
「只の傭兵に生まれただけで」
「それで、ですね」
「ああなったのですね」
「王に生まれていればああはならなかった」
審問官もこう言うのだった。
「死ぬことはなかった」
「ですね、我々にも手を回し」
「何もないことにしましたので」
「それが出来ないからああなった」
火炙りになったというのだ。
「実に運の悪い男だ」
「全く以て」
「その通りです」
補佐の者達も冷徹な声で応える、そしてだった。
補佐官に対してだ、こうも言った。
「では次のですね」
「次の取り調べですね」
「それを行いますか」
「今より」
「今度の罪人はどうした罪だったか」
審問官の言葉に感情はなかった、ただ淡々と述べていくだけだった。傭兵の身体は今も尚燃え盛っている、だが。
審問官は補佐の者達と共にその火を見ているだけだった、運が悪い男を燃やすそれを。
一部だけのもの 完
2014・8・19
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