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ダークサイド
第五章
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「こっちもな」
「裏方だから当然だがな」
「まあな、この仕事は裏方だよ」
 諜報員の仕事はというのだ、まさに。
「綺麗な世界じゃないさ」
「その中でも私のやることはか」
「その裏の世界の中でもな」
「言うものだな、しかしな」
「それでもか」
「私は結果を出している、いいじゃないか」 
 結果が全てだとだ、アラコジは言うのだった。
「しかも誰も殺さず破滅もさせていないからな」
「それはその通りだがな」
「人知れず情報を聞き出しそして国家に貢献する」
「相手には全く気付かれないうちに」
「それなら最高だと思うがね」
「そうしたものか」
「確かに私は人妻でも彼氏持ちでもベッドを共にする」
 夫人にした様にだ、そうすることは事実だというのだ。
「しかしだ、それを誰にも悟らせず情報を取っていることも気付かせない」
「誰も手にかけず破滅もさせない」
「いいと思うがな」
「そうした考えもあるか」 
 同僚もアラコジのその言葉に応えた。
「詭弁にも聞こえるがな」
「そうかも知れないがな」
 自分でも言うアラコジだった。
「少なくとも私は任務とはいえ人を殺したことも破滅させたこともない」
「それがあんたの美学か」
「そう思ってくれたらいい」
「ならいいか、とにかくな」
「これからもだな」
「極論すれば情報を仕入れてくれればいい」
 つまり諜報員の仕事を果たせればそれでいいというのだ。
「これからも頼む、私の好き嫌いは抜きにしてな」
「そうさせてもらう、私もな」
 アラコジはにやりと笑って同僚に答えた、その笑顔は決して卑しいものではなかった。
 そしてフランスに戻ってだ、彼はルールドに報告した。するとルールドは彼に目をやってこう言ったのだった。
「今回も見事もエルカミーリョだったな」
「闘牛士ですか」
「色男だ」
 歌劇カルメンのそれだというのだ。
「見事な働きをしてくれた」
「そういう意味ですか、しかし」
「しかし?何だ?」
「私の声は高いので」
 笑って言うアラコジだった。
「エルカミーリョではないかと」
「バリトンではなくか」
「歌もテノールです」
 そちらになるというのだ。
「ですからエルカミーリョではなく」
「ではドン=ホセか」
 そのカルメンのテノールだ、騎兵隊の伍長で後に盗賊団に入る。
「そちらになるか」
「いえ、ホセは失恋していますし純情極まりないです」
「ですから君とは違う」
「はい、ですから私は」
 自分が何になるかというと。
「マントヴァ公ですね」
「ヴェルディのリゴレットのか」
「そちらになります」
「そうか、色男か」
「美男子の」
「そう思うか、ならそれでいい」
 ルールドもそれでよしとした。
「君がそう思うのならな」

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