第四章
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かったわ。それじゃあ」
「うん、お祈りしょうね」
「ええ」
こうして二人はお賽銭を入れてそれから二人並んでお祈りをした。そのかいがあってか翔太は何とか一命を取り留めた。右手はなくなったがそれでも命は助かった。暫く入院が必要であったが。
「そうですか。助かりましたか」
「右手は残念ですが」
「それでも。助かったんですよね」
あの初老の医者に対して言う。助かったというそのことを再び聞くのだった。
「破傷風から」
「はい。それは確かです」
医者もそれは認める。助かったというそのことだけは否定できなかった。
「ただ。暫く入院は必要です」
「そうなのですか」
「やはり怪我が酷かったですし」
理由はそれであった。
「出血多量もかなりのものでしたし。それに」
「それに」
「右手のぶんですね、やはり」
右手のことがまた語られた。
「入学式は間に合いませんが。ゴールデンウィーク明けまでにはまず」
「学校にも行けるのですね」
「ええ。それは大丈夫です」
「わかりました。それなら」
それだけ聞いて満足した。ほっとした笑顔が続く。
「いいです。右手は私が何とかします」
「貴女がですか」
「そうです。私が右手になります」
静かな言葉だった。しかしそれと同時に強い言葉だった。芯の強い、柳にも似た強さのある言葉であった。華の心そのものの言葉だった。
「だから」
「右手についてですが」
医者はその強い決意に打たれたのだろうか。華にたいしてあえて明るい声を作って述べた。
「義手があります」
「義手ですか」
「そうです。手は一本になりましたが」
右手がなくなったからだ。結果としてそうなる。
「けれど。それで一本ではなくなります」
「二本に」
「手も一人では寂しいではないですか」
そう表現するのだった。彼もまた微笑んでいた。芯のある微笑みだった。
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