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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十五話  戦争への道 
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室は落ち着いた感じのする部屋だった。むやみに高価な家具や調度、芸術品は無い。平民の俺が居ても疲れない部屋だ。内乱終結後、時折此処に来るようになった。マリーンドルフ伯も歓迎してくれる。今日も三人でコーヒーを飲んでいる。

伯が俺を歓迎してくれるのは俺をヒルダの親しい友人、いや恋人と認めてくれているのも有るが政治的な意味合いも有るようだ。例のキュンメル男爵のヴァレンシュタイン元帥暗殺未遂事件でマリーンドルフ伯爵家は極めて拙い立場になった。もう少しで帝国は国家の中心人物を失うところだったのだ。伯爵家に対する非難は大きかったと言って良い。

そんな伯爵家にとって俺とヒルダの関係は極めて都合の良い物だった。内乱で別働隊を率いた俺はヴァレンシュタイン元帥の信頼厚い部下と周囲から評価されている。そんな俺が頻繁に伯爵家を訪ねる、そして司令長官はその事に関して何も言わないし閣下から俺が避けられる事も無い。

司令長官はマリーンドルフ伯爵家に対して何ら含む所は無い、俺とヒルダの事も認め祝福している、周囲はそう認識している。つまりマリーンドルフ伯爵家は許されているという事だ。そうでなければ伯に対して内務尚書を辞任しろという圧力が周囲からかかっただろう。政府閣僚には司令長官に近い改革派が少なからずいるのだ。

「相変わらずお忙しいのですか」
「そうだね、内乱が終わって一年と半に満たない。今は新たな国家建設の時だ、とても暇とは言えないな」
内務尚書、マリーンドルフ伯が穏やかに笑い声を上げた。多くの貴族が持っていた傲慢さをまるで感じさせない笑い声だ。実際伯ほどの人格者はなかなか居ないだろう。その事も伯が内務尚書を辞任せずに済んだ理由の筈だ。

「それでも以前に比べればかなり楽な筈ですわ。そうでしょう、お父様」
「まあ、それはそうだが」
ヒルダの言葉に伯がちょっと照れたような表情をした。聡明な娘に痛いところを突かれた父親、そんなところだ。もしかすると伯はそんな父親役を楽しんでいるのかもしれない、コーヒーを飲んでいる伯を見てそう思った。

「やはり省を解体した事が大きいのでしょうか」
問い掛けると伯が笑みを浮かべながら頷いた。
「そうだね。以前に比べれば何分の一、そんなところだろう。もし元のままだったらこの時期に私一人で切り回すのはなかなか難しいと思う」
「内務省は省庁の中の省ですものね」
ヒルダの言葉に伯も俺も頷いた。

かつて内務省は省庁の中の省と呼ばれた。内務省が持っていた権限は財務、司法、軍事を除いた行政全てといって良かった。帝国内で内務尚書ほど大きな権限を持っていた人物は居ないだろう。だが内乱後は新たに保安、自治、運輸、工部、民生の五つの省が誕生し内務省が持っていた権限を委譲された。

内乱時に政府に敵対しローエングラム伯の反逆に与
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