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一人より二人
第三章
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うしてここに」
「話は聞いたよ」
 多くは言わなかった。ただこう告げるだけであった。
「だから来たんだよ」
「ここになのね」
「うん」
「来てくれたの」
 その心がわかる。だがそれでもその心は暗いままである。しかし。光平はそんな彼女にさらに声をかけるのだった。優しい声を。
「少し。出ない?」
「出るって?」
「うん。正直あれだよね」
 言いにくいことだった。しかしそれでも。彼は言った。笑顔を作りながら。
「神様に御願いしないとって状況だよね」
「・・・・・・ええ」
 その言葉にこくりと頷く。正直に言ってそうだった。そんな状況だった。だから昨日のまた祈っていたのだ。祈り、さらに祈って疲れ果てて。このまま眠ってしまったのだ。
「ここでさ。御願いするより」
「ここで」
 病院で、という意味だ。
「お寺か神社に行こうよ。近くにいい神社を知ってるしね」
「そうなの」
「それにね」
 さらに言うのだった。ようやくその顔をあげてきた華に対して。
「一人で祈るより」
「一人で」
「二人でお祈りした方がいいよ」
 明るい笑顔で述べるのだった。まるで華を照らすように。
「二人でお祈りした方が」
「そうだよ。だからね」
 また声をかける。
「行こう。一緒にね」
「一緒に」
「それでどうかな」
 また声をかけてきた。彼の言葉を聞いて少しずつ心に光が差し込んできたように感じた。それはごく僅かであったがそれでもだった。完全な闇の中にあるのとは事情が全く違っていた。
「一緒に行くってことで」
「そうね」
 また俯いてしまった。しかしその表情はこれまでとは違っていた。絶望の中に沈みきりただひたすら祈るものではなかった。希望を微かにであるが信じてみる。そんな顔だった。
「それじゃあ」
「それでいいんだね」
「ええ」
 彼の言葉にこくりと頷いた。小さくではあるが。
「御願い。一緒にお祈りして」
「わかったよ」
 光平が微笑むとそれが合図になった。二人は病院を出てそれから神社に向かった。神社は静かで落ち着いた雰囲気だった。社の周りには緑の木々がある。それを見ていると少しだけだが気持ちが晴れる気がした。たったそれだけのことでも今の華にとっては有り難いことだった。
「ここなのね」
「そうだよ」
 光平が華に答える。彼は華の横にいた。
「ここがその神社なんだ」
「そう。ここが」
「お金。あるよね」
 今度はこう彼女に尋ねてきた。
「お賽銭のお金。なかったらあげるけれど」
「貸す、じゃないのね」
「うん」
 また頷くのだった。
「だって。華ちゃんだから」
「私だから?」
「そうだよ。華ちゃんだからね」
 また言ってきた。

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