魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり1
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偽典リブロムを取り戻し、『かつての自分』の記憶を『追体験』してからも変わらない。今の自分は、かつて存在したその魔法使いではない。不死の怪物といえど、それはすでに滅んだ存在だ。ならば、当然だろう。どうという事もない。
死人は蘇らない。ただ、それだけの――ごく当たり前の話なのだから。
2
「きっと私は狂っていた」
再び夢を見た。……あの人の夢を。きっと、私とよく似たあの人の夢を。
夢の中で、彼女は独白のように呟く。
「自分の出生の秘密を知ったその瞬間から。まともじゃない私は、まともな世界全てを恨み、妬み、憎悪した」
出生の秘密。私の生まれた理由。私が生まれた意味。……私が生まれなければならなかった原因。それは――
「我ながら醜い女だ。どうやら、死んでも治らないらしい」
彼女が笑った。いや、泣いたのかもしれない。
「他人に勝手に自分を重ねて、勝手に憎悪するなんて救い難いにも程がある。アイツらのバカが移ったにしても度が過ぎているな」
彼女の手が頬に触れた。憎しみに染まった右手ではなく、ただの人である左手が。その手はとても不器用で――それでも酷く優しく感じた。
「私が飼っていた怪物は、私の最初で最後の仲間どころかその弟子まで壊さなければ気が済まないらしい。まったく、本当につくづく醜い女だ」
彼女の右腕が黒々と輝く。それを見て、彼女は自嘲してみせた。
「オマエがこうなってしまう前に、私が終わらせる。だから、ゆっくり寝ていろ」
「待って! 私は――…」
何と答えようとしたのか。自分でさえ分からないその呼びかけが言葉になる前に、夢が終わっていた。
…――
緊急時のためにと光が教えてくれた隠れ家の一つで、独り朝を迎える。空は皮肉なくらいに晴れ渡っていた。
現地時間にして午前五時半。充分に早朝と言っていい時間だ。そして、
今日は五月九日。光が生きていたとして。彼が彼で居られる最後の一日だった。
(光を見つけて。ジュエルシードを持って帰らないと……)
ジュエルシードは母さんの望みを叶えるのに必要なもので。それがあれば光も助ける事が出来る。光を助けようとするなら、今日中に決着をつけるしかない。その為には、
「あの子を――光の妹さんを見つけて、ジュエルシードを貰わないと」
貰うなんて言葉は適切じゃない。あの子が渡してくれない事くらい、分かっている。だから、奪い取るのだ。例え戦って――傷つけてでも。
「――ごめん、光」
傷つけないと言う約束はもう果たせそうにない。例え衝動を抑えられても、光は私を許してはくれないだろう。それでも、母さんがそれを望むなら。
いくつもの嘘や矛盾。それに絡め捕られたままでも。このまま先に進むんだ。
…――そして、私は見つけた。
「ここならいいよね。出てきて」
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