第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
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ブルに肘をつき、額に掌を当てた。「わずか一か月で、彼女は二度とハツセリちゃんとして振る舞わなくなった」
「ハツセリちゃんとして? じゃあそれまでは、じゃあ、俺が初めてあった時はハツセリとして振る舞っていたと言うのですか? ハツセリに、ハツセリの人格があったということですか?」
「わからない。けれど、今になって確かに言えることは、そういえばそれまでのハツセリちゃんの振る舞いやものの考え方は、生前の桑島君とまるで同じというわけではなかった。君に会う前と会った後の彼女の言動を比較して、初めて言えることなんだ」
「俺はハツセリに会っていたんだ!」
暗い店内で、クグチは耐えきれず声を荒らげた。
「俺に会ったのが原因でそれが消えたというのなら、俺が殺したのと同じことじゃないか!」
「違う! それは違うぞ、明日宮君!」
「ハツセリは」記憶が閃光のように過ぎ去る。「俺にさようならと言った! あの廃ビルの庭園で二度めに会った時に!」
こんにちは、そして、さようなら、と。
「俺は気にしていなかった。変なことを言う奴だと思ってたから。でもあれは、あれはハツセリの最後の言葉だったんだ。俺に会ってしまって、もうハツセリとして存在できないと悟ったから、それで別れを――」
補完された桑島メイミの人格として、こんにちはと言った。お久しぶりと言った。
それに上書きされ、消えゆく存在として、ハツセリがさようならと言った。
「――何が、違うと言うのです?」
「ハツセリちゃんを殺したのは、君じゃない。僕と向坂君だ。僕らが、彼女に君に会うよう勧めたから。向坂君が彼女を連れて南紀に行ったからだ。君のせいじゃない。君は何も悪くない」
「じゃあ、誰が悪いと」
「僕だ。でも、ハツセリちゃんの人格がハツセリちゃんの中にあるなんて思っていなかったんだ。それが電磁体の疑似人格に上書きされてしまう可能性があるなんて……いいや、これは言い訳だ。一つの体に二つの記憶と人格は入れない。わかっているべきことだった」
「ハツセリは……死んだのですか?」
「そういう言い方もできる」
伊藤ケイタは、長く、唇を結んでいた。
「どう……償えばいいのか……わからない」
何も言葉が続かなかった。
どれほど二人して黙っていただろう。
誰かが外から店のドアノブを回した。びくりとそちらを見ると、鍵がかかっているようで、外の人物は何か不満を呟きながら引き返していった。
あの店員か店主が、二人の為に店を閉めてくれていたのだ。
クグチは気を切りかえた。
「向坂さんが国防技研をやめてACJに転職したっていうのは、表向きの話なんですよね」
「まあ、そうだね」
「誰かがハツセリと一緒に廃ビルで暮らしていた。誰かがそれをACJの特殊警備に密告した。逮捕されたあの人たちは何なんですか?
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