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Magic flare(マジック・フレア)
第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
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助けたことをじゃない。引き替えに他の人や子供たちを犠牲にしたことをだ。彼女は罪を償う方法を探した」
 これが現実かわからない。
 現実に起きた話なのか。自分の身に。
 クグチは耐える。目眩に耐える。生きながらえた命を、この心臓を、路上にちぎり捨てて、そうまでしても自分の生を確認したい衝動に耐える。
「守護天使に転写された桑島君の人格は消滅を許されず、ハツセリちゃんごと軍の施設に移された」
「……それから?」
「罪滅ぼしの方法を提示された。それが、国防技研の人体実験の延長に協力することだったんだ」

 国防技研が、と伊藤ケイタは言う。それを要求した、と。
「向坂君も、拒絶できる立場ではなかった」
 彼は闇になって呟く。
「伊藤さんは、その時、どうしていたんですか?」
「僕はとっくに国防技研を辞めていたよ。Q国から帰ってすぐにね。意気地なしなんだ。僕には罪滅ぼしなどできない」
 クグチを見ずに笑う。
「そんな実験は異常だって思うだろう。みんな異常だったかもしれない。善も悪も関係なかった。ただ電磁体のすべての可能性を知りたかった。研究者っていうのはそういうものなんだ」
 あなたもですか? 向坂さんもですか? 桑島さんもですか? 
 僕の父もですか?
 クグチは固く口を閉ざし、恐ろしい質問を殺す。
「桑島君にしても断れなかった。それが、姪ごさんを生きさせる唯一の方法だったから」
 僕がそれを知っているのはね、と続ける。
「後になって全部向坂君に聞いたからだ。何もかも嫌になったね。……本当に。僕は勤めていた大学も辞めた。作家業も辞めた。そしてこの町に姿を隠した。居住区の外の人間になっちゃえば、行方をくらますことなど簡単だ」
 伊藤ケイタは無表情になる。
「だが向坂君はそうはいかなかった。桑島君は、向坂君が国防技研から逃げず、研究を完成させることを望んだ」
「研究って、電磁体の……人体実験を? 人格を他人に転写させるっていう?」
「そう。もう取り返しがつかないから。ハツセリちゃんの本来の人格は育たなかった。肉体だけ大きくなったって、それを育ったと言えるかい」
「それは……」
「犠牲に見合うだけの成果が必要だったんだ。それを手にせず国防技研を去ることはできなかった。みんな戦争を忘れた。ドームに引きこもった。守護天使を持って幸せだ。幸せだと思って暮らしている。そんな世界がほしかったんじゃない。そもそもね、そんなことのための研究でも実験でもなかったんだ」
 不穏なものを湛えて声が大きく膨らみ、伊藤ケイタは何かを堪えて一時、押し黙る。
「……終わらせることだけがね、罪滅ぼしなんだよ。向坂君の、Q国で犠牲になった人々に対しての。桑島君の、ハツセリちゃんを生かすために犠牲になった子供たちに対しての。でも、向坂君は本心から、国防
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