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Magic flare(マジック・フレア)
第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
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。桑島君もね」
 そうか、その時に、あの遺言代わりの動画が録られたのかとクグチは察した。
 強羅木がQ国での人体実験に参加しなかったという話に、クグチは奇妙な安堵を覚えた。彼は自分に先見の明はないと言った。しかし彼は、時代の強者や多数派になることを、強者や多数派としての様々な特権やリスクを得ることを、加害者になることを、回避して生きてきた。クグチに守護天使を持たせなかったのも、その延長線上にある。
「同じ時期、日本で守護天使が商品化された。あれはとても平和的な人体実験だったんだ。多くの人が流行に乗り遅れまいと、喜んで参加した。何も知らない内に」
 意識的にそうしているのかどうかはわからない。何となく、強羅木はそう生きることをさだめづけられた人間であるような気がする。
「けれど、明日宮君は亡くなった」クグチは我に返る。「その後釜を、向坂君が継いだ」
「停戦してからもですか」
「本来なら、そこでやめなければならなかった」
 伊藤ケイタは目を閉ざした。
「でも、やめなかった」
「どうやって実験を継続したのですか?」
「……太陽フレアで戦局が混乱し、調停機関が本格的に動き出すと、国防技研は人体実験の証拠隠滅を急がなければならなかった。様々な物証を焼却し、逃げるようにQ国から引き上げた。向坂君は、帰国してから桑島君の訃報に触れた」
 けれど、彼女の記憶と人格を引き継いで、守護天使が残っていた。
「向坂君が、生まれたばかりのハツセリちゃんが収容された病院に行ったのは、そこに、クグチ君、君もいたからだ。君はかつて向坂君に会っている」
「そうだったんですか」
「記憶がないことは聞いている。ともかく向坂君は、その……新生児であるハツセリちゃんのまっさらな守護天使に、桑島君の守護天使が転移していることを知った。桑島君にとって、いや……守護天使にとって……そうすることが」
 伊藤ケイタは笑う。笑って眉間の肉を摘む。肩を震わせ、声を潤ませ、恐れおののいて笑っている。
「そうすることが、桑島君がハツセリちゃんを生き延びさせる方法だったんだ。焼け跡で、声を大にして叫ぶことが。ここに子供がいる、助けてって。そして収容された陸軍の病院で、身内可愛さゆえに、他の子を見殺しにしてでもハツセリちゃんの治療を優先するよう病院関係者に強要することが」
「そんな」
「だから助かったんだ。ハツセリちゃんも。君もだ。彼女が、桑島君の遺志が、守護天使が、焼け跡でスピーカーとなって君の所在を叫んだから、君は見つけだされ、保護された。だから君は焼けることも飢えることもなかったんだ」
「ハツセリはそんなことを言わなかった!」
「言うわけがない」
 伊藤ケイタは指で目許を拭っている。涙は見せない。
「冷静になった桑島君は自分がしたことを悔やんでいた。君やハツセリちゃんを
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