暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
[5/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
! 居住区の人っぽいから、あたしてっきり、また役所の調査か何かかと。まあ、そう」
 彼女はクグチの前にもコーヒーを置き、別人のように優しく微笑みかけた。
「なぁんだ、そういうことかぁ。ゆっくりしていってね。まあ、言われてみれば目許とか鼻筋とかそっくり」
 店員が引っこむと、伊藤ケイタは苦笑いして言った。
「居住区の外では、無課税の食料品が流通してるって噂だろ。ま、そういうことだから」
「ええ……。父はよくここに来ていたのですか?」
「うん。よくね。あの頃は店の立地ももっといい場所にあって、あの店員さんもね」
 と、ゆで卵をテーブルで叩き、剥き始めた。
「もともと明るくて愛想のいい人だったんだよ。でもまあ、今じゃいろいろ警戒しなきゃいけないこともあるから。居住区の外の暮らしは、たぶん君が思っているより不便や苦労が多い。気を悪くしないでね」
「とんでもないです、いただいていいですか?」
「どうぞどうぞ。で」
 伊藤ケイタは口許だけで笑う。
「なんで、君は僕を探していたのかな」

 店員はあれっきり出てこない。
 客も来ない。
 ここで、伊藤ケイタが秘密の話をすることに、慣れているようだ。
 こうやって、彼はよくこの店で謎めいた話をしたのだろうか。
 向坂ゴエイと。桑島メイミと。
 道東に来てからこれまでのことを、あさがおのことを除いて、クグチは全て話した。伊藤ケイタは頷く機械のように、口を挟むことなく聞いた。
「桑島君の件なら僕も知っている」
 伊藤ケイタは氷が溶けて薄くなったコーヒーをストローでかき回しながら口を開いた。
「須藤ハツセリのことでもある。桑島君の姪だ。君が推測したとおりだ。ハツセリちゃんは、桑島君でもある」
「何で彼女はそんな存在に」クグチは、言葉を選んだ。「……なったのですか?」
「実験だった」
「実験?」
「……不可避な流れだった」
 伊藤ケイタも言葉を選ぶ。
「ところで、君も知っていると思うが、守護天使というサービス名で商品化されている電磁体たちは、そもそも軍事目的で開発されたものなんだ」
「ええ」
「あれは情報と機密の保持に革命をもたらす画期的な実験だった。情報それ自体が、開示する相手を自ら選び、判断できるのならば、それはただの情報ではない。初期の研究者たちは、情報を生き物にできると考えたんだ。記憶させ、保持させ、必要とあれば……生きた人間に次から次へと転移させ、永遠に生きさせることができると。僕たちは日本にいた時からもう研究に加わっていた。そして陸戦で荒廃したQ国は、その実証実験を行うのに都合がよかった」
「……人体実験、ということですか?」
「そうだよ。僕がした。明日宮君も、向坂君もだ。Q国で、した」
「強羅木は。……強羅木ハジメは」
「彼はその前に、日本に帰ったから
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ