第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
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ねぇ」
男は顎を上げ、邪悪な顔で、
「俺がガキを殺したせいなんだけどねぇ!」
笑いだした。長く。島はかろうじて一礼し、急いで通り過ぎた。
スカイパネルの破片が路傍に積み上げられている。雲の赤を映している。
『おろして』
そしてまた、走り出す島の隣でスカイパネルは喋りはじめる。
『おろしてと、私は頼み続けました。夫がおろしてくれた後も、夫が越していった後も、私はぶら下がり続けておりました』
角を曲がっても聞こえる。
『けれど』
次の角を曲がっても聞こえる。
『私の足の下には、いつしか畳がなくなって、この欄間の下にはぎっしり亡者が詰まって立ち、私を見上げていました』
まだ聞こえる。
『ですので、この縄が切れても切れなくても、私は苦しむさだめなのです』
小雨が降り始めた。透き通る夜明けだったのに、きっと大雨になる。
小さなアパートについた。外階段を二階へ上り、薄い扉を叩く。
「星薗さん! 星薗さん」
自分でも予想していなかった言葉が、続けて口から出た。
「助けて」
内鍵を回す音。扉が外側に開き、充血して濁った二つの目を持つ、星薗の黒い顔が出てきた。
「何だおめぇ」
その不健康な顔で星薗は言った。
「何だ」
島は何も説明できることがなく、立ち尽くす。
「何だよ。助けてくれたぁ、どういうことだ」
「……すみません」
「何でぇ」
たまたま、星薗の体越しに、奥の寝室が見えた。
中に女物の衣服が散乱している。
「あがってけ」
ふいと背を向けて、中に入っていく。
「あの」
「入れや。用があって来たんだろうが」
狭い三和土で、後ろ手に戸を閉めたとき、ひどい後悔で胸が潰れる思いがした。二度とこのアパートから逃げられない予感がした。
「何しに来た」
島はその言葉で、自分が生きていることを思い出した。ACJの特殊警備員で、その仕事で生活し、人間の社会で生きている、人間であることを思いだした。自分が死者ではないことを、死者の姿など見えず、死者の声など聞こえないことを思い出した。
幻覚を見たんです。島は言葉を喉で殺す。町がひどいありさまだから、精神的に参ってるんです。
「岸本さんに言われて……あの、仕事に来てほしいって……」
星薗は散乱する衣服の中で肩を揺すって嘲笑した。
「で、何を見た」
「えっ?」
「ひでぇ顔だぜ? 幽霊でも見たような」
立ったままの島は、寝室を埋める衣服の中に、子供服も含まれていることに気付いた。
「坂の下の、塀が崩れた一軒家知ってますか? 殺人事件があったっていう」
「俺が捜査した事件だ」星薗は胡座を組んで頷き、「……俺が遺族になった事件だ」
「えっ?」
「昔刑事だったって言ったろうがおめぇ。聞いてなかったのか」
「初耳です。すい
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