第7話 壊レタル愛ノ夢(前編)
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空はまだ赤い。血が流れたのだろう。
血の汀(みぎわ)から打ち寄せられる赤い雲の下を、島トウヤが歩いている。
赤いなあ、と呟いた。もう夜明けでもないのにね。まあ、そうだね。時間わかんないよね。時計、さっきのフレアで全部駄目になっちゃったもんね。
と言ったところで、話し相手が存在しない事に気付き、愕然として足を止める。
続けて、いや、でも隣に、さっきまで誰かいた、と言うように、その誰かを探すように、左右を見、前後を見、恐怖を顔に刻みつけて立ち竦む。
梅雨の湿った風が坂の上から来て、、島にぶつかり、通り過ぎていった。
『すると毒の霧が満ちて来て』
路傍に投げ捨てられたスカイパネルのスピーカーが喋りだした。
『私たちの区画まで来ました』
男のアナウンスである。
『私たちはみな、懸命にシェルターに走りましたが、霧はそれより早く私たちに追いついて、全員を包みました』
島は足を動かす。
『熱い。なんだこれは。熱い。爛(ただ)れる。熱い。痛い。熱い、痛い。熱い、痛い、痛い。痛い。熱い、痛い。焼ける。痛い、熱い、痛い』
震える膝でぎこちなく歩き、徐々に急ぎ足になり、ついに走り始める。
『私たちはシェルターにたどり着き、その壁を、その扉を、ガリガリとかきむしりました。熱い。痛い。熱い。霧が焼く。痛い。熱い。皮膚が剥ける。皮膚が焼ける。開けてくれ。皮膚が焦げる。助けてくれ。助けてくれ。ガリガリかきむしりました。ガリガリ。ガリガリ。ガリガリ。またガリガリ。ガリガリ。ガリガリ』
島は角を曲がり、そこでまたたじろぎ、足を止めた。
首吊りが見えた。
『ガリガリ、ガリガリと。ガリガリ、ガリガリと。けれどシェルターは開かず、決して開かず、私たちはそこに家族がいることを、そこから出てこぬことを願いとし、祈りとし、出てくるな、このシェルターから、檻から、決して出るな、泣く看守となって、開けるな、出てくるな、ああ、けれどガリガリ、ガリガリ、ああ、やっぱり開けてくれ、入れてくれ、熱い、苦しい。助けてくれ。死にたくない。ガリガリと、助けてくれ、助けてくれガリガリと、恐い、死ぬのは恐い。ガリガリ、ガリガリと』
崩れた塀、庭に面した窓の向こう、欄間に縄をかけ、和室に人がぶら下がっている。
女だ。髪が長く、ひどくなで肩だ。
「おおい」
不意に呼ばれた。
「どうした、そんなとこで」
初老の男が崩れた塀の前に立っていた。
「人が」
上擦った声で異変を告げ、窓を指さすと、もう首吊りの女は消えていた。
「この家はずっと前から無人だよぉ」
間延びした声で、男はのんびり答えた。
「ご夫婦とお子さんが住んでらしたんだけどねぇ。ひどい事件でねぇ。お子さんが殺されてねぇ」
「……そうなんですか」
「奥さんも自殺して
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