気高い恋
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「ええ」
エヴァはとりあえず頷いた。
「じゃあ僕が君のことを心配しなくてどうするんだよ。僕は君の夫となるんだぜ」
「それはそうだけれど」
「僕にできることなら何でも言ってくれよ、相談に乗るから」
「そんなのじゃないの」
だがエヴァはそう言って彼から目を逸らそうとする。
「だから。今は一人にして」
「今は?」
「ええ」
エヴァはまた頷いた。
「一人でいたいの。いいでしょ」
「君がそう望むのなら」
彼はそれ以上突っ込もうとはしなかった。
「僕は何も言わないよ。けれどきっと君を元気にしてみせるよ。それでいいね」
「ええ」
ただそう言葉を返すだけだった。エヴァは結局本当のことを言わなかった。ペーターもまたそれ以上聞こうとはしなかった。だが彼は何としてもエヴァの心を明るくさせようと決意したのであった。
ペーターは考えた。エヴァを明るくさせるにはどうすればいいか。彼女の好きなものを贈ったらどうだろうかと思った。
「何がいいかな」
彼女は花が好きだった。特に白い花が。とりわけエーデルワイスが好きだった。ペーターはそのことを思い出したのであった。
「エーデルワイスか」
一言で言うのは容易い。だが容易なことではない。それは何故か。
エーデルワイスは岩山の上に咲いている。取るのは難しい。ペーターはお世辞にも器用な男ではない。斧を力任せに振ることしかできない不器用な男だ。そんな彼がエーデルワイスなぞ取れる筈もなかった。
だが彼は決めた。取る、と。そしてエーデルワイスをエヴァに贈るつもりであった。彼は一度決めたら何としてやり遂げる考えの男であったのだ。
彼はすぐに高い岩山に登った。木も草もない岩ばかりの山であった。その頂上にとりわけ美しいエーデルワイスが咲いていると聞いたからであった。
彼は岩を一つずつ越えていった。そして頂上に近付いていった。そして長い時間をかけて遂に頂上に辿り着いたのであった。
頂上はこれまでの岩山ではなく草木が生い茂っていた。そしてその中に一輪の花が咲いていた。
「これだ」
ペーターは遂に見つけた。エーデルワイスを。そしてその花を手にとった。そっと懐に入れた。
それから岩山を降りて行った。ゆっくりと、だが確実に。あと少しでふもとが見えてくるというところまで戻ることができた。
「もう少しだ、エヴァ」
彼はここで恋人の顔を脳裏に思い浮かべた。
「君にこの花を贈ることができるよ」
そう思うだけで胸が一杯になった。白い花が胸に宿っていた。彼はそれを贈る為に岩山を登り危険を冒したのであった。今それが報われようとしていた。
だが彼はここで気を緩めてしまった。足を滑らせてしまった。そしてそのまま落ち
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