第短編話
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後を指さした。
「……珪子ぉ!」
その翔希のジェスチャーに反応して素早く背後を振り向くと、そこにいるのは壁からジッとこちらを見ている珪子とひより。悪いけど片付けは翔希に任せるとして、素早く逃走した珪子とそれを追うひよりを追うことにする。
……さて、嵐のように走り去っていった里香たちを見送りつつ、里香と俺の食事のトレーを食堂へと返す。すまないシリカ。ひよりはともかくシリカは助けてあげられないが、頑張って昼休みの間を逃げ切って欲しい。
キスの格言。……実際知らなかったので教えて欲しかったんだが、誰か知っている人はいるだろうか――などと考えつつ、少し喉が渇いたので紙コップの水を注いで飲む。キスの格言とやらも、それ自体も、こんな何でもない時ではなく……また未来に。いつかの未来で、彼女と共に歩む道で体験する。
「……さて」
水を飲み終わった紙コップを捨てながら、まずは里香たちが走り去っていった廊下を眺める。もうどこぞに走っていったのか、その姿はどこにも見ることは出来ないが、歩いていればいつか未来に見つかるだろう。里香たちを探すべく、俺は適当に歩き始めた。
コメント:先と同じくトリプルクラウン式の短編。何故かルクスことひよりが出てる。
『夜行列車』
我輩は夜行列車である。名前はまだない……と言いたいところだが、『あさかぜ』という名前がある。この自己紹介が何番煎じになるか分からないほど、有名になったあの猫にはない名前が自分にはある。ざまあみろ。
しかし《あさかぜ》という名は、朝の風のように爽やかさを感じる名前だというが、私が走っているのは満天の星空だ。朝になるのは最後まで走りきってからと、疲れていてまるで爽やかな朝とは縁がない。
……ああ、そろそろ富士の麓が見えてきた。あのゴミだらけの山も線路から見れば綺麗なものだ……などと、当然私は富士山に登ったことなどないのだが。通ぶった人間のように言ってみることとした。博多から東京へ夜の闇の中を走るこの《あさかぜ》に、夜桜の花びらが前のガラスについたものの、あっけなく風でどこかに吹き飛んでしまう。風情も何もあったものではない。
車内では様々な客がくつろいでいるものの、その数は疎らで繁盛しているとは言い難かった。これでも殿様列車、などともてはやされたこともあったのだが、もはや乗るのは貧乏学生か物好き程度。ちんたらと線路を走る私の遥か頭上を、飛行機が轟音とともに悠々と追い越していく。
随分と古くなった車両が夜の寒さもあって軋み、外壁はボロボロになってペンキが剥がれていた。飛行機や自家用の車や新幹線が増えた上に、当の私がこうもなれば、客が入ってこないのも当然だ。いっそ、スクラップにしてくれればありがたいのに。
そんなことを言えるはずもな
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