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温泉旅行
温泉旅行(前編)
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議で仕方がない。

「あの、さ……」

これもまた遠慮がち。
いやいつも通りに会話しろと言われても今のりとは俺の知っているりとじゃない。
俺はりとの返事を待つことはなく続けた。

「中央駅に来いってメモ置いたの、お前だよな……?」

一言「違う」と俺は言って欲しかった――それは多分、建前であって本音じゃない。
ただ一言「んなわけねぇ」といつもの様に言って欲しいと100%思っていた――100%肯定して欲しかった。
そんなことを思っている俺とは真逆にりとは「何か、文句あんのかよ」と自分がメモを置いたと肯定していた。
俺の表情は何故かにやけてしまいそうだ。
実際は全く嬉しくもないのに――本当は嬉しいなんて気が付いてない。
俺はどうしたら良いのか分からないので、適当に頷いていた。

メモが置いてあった日から6日目。
特に変わりもなく1日が終ろうとしていた時に俺は、中央駅に来いと書かれたメモを再び勉強机の隅っこで見つける。
今度は俺が見ている側に『金曜朝6時貴重品持って中央駅に来い』と書かれていた。
最初から細かく書いていれば良いものをと1人で思いつつそのメモをゴミ箱に捨てる。

「朝6時って結構早いな」

溜息を吐き――少し高鳴っている鼓動には気付かぬふり。
俺は電気を消して、肌寒いと思いながら半そでと半ズボンで布団の中に入って目を閉じた。
完全に眠りについたのは午後11時半ぐらい。

**

そして次の日、俺は確かにアラームをセットするのを忘れていた。
目が覚めると何かが違うと思い、時計を確認すれば午前6時15分。
完全に遅刻。
目が覚めたのが15分、此処から中央駅まで徒歩で30分、自転車で信号待ちをした場合約10分取り合えずベッドから降りて服を着替え、貴重品(携帯や財布)をポケットに入れて階段を下り、お手洗いに行ってから洗面所に向かう。
櫛で髪を梳けば後ろで1つにまとめて顔を洗い、そのまま歯を磨く。
大体10分ぐらいで準備が出来て時計を見れば、6時25分。
不機嫌で待っているんだろうなとあまり良い気分にはなれないが、歩きながら髪をハーフアップにして部屋に着けば半そでの灰色の生地が薄いパーカーを羽織って玄関に向かい、靴を履いて外に出る。

暫く使っていなかった自転車を見つけても使う気にはなれなかったので、徒歩で向かう事にした。
イヤフォンを忘れたので音楽を聴きながら行けない事に気が付いても取りに帰ることはせず、ひたすら中央駅に向かう。
ドタキャンすれば良いのにと自分でも思ったが、後々面倒なので行くしかない。
ベージュ色のジーンズの膝裏部分に汗が滲んでいるのが歩いているのでよく分かる。
七部袖の白ワイシャツの肘部分でも同じよう汗が滲んでいる。
30分も遅刻しているのに電話がないとい
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