暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫
≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
≪外伝≫ かなわないけれど
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けだろう。私は悠然と言葉を続ける。

「なにか手伝えることあるかしら? 私も現状にはそこそこ不満だからね」
「そうだな……まずはもう少し作戦を練るとこから始めようか……」

 ディアベルは真剣な面持ちを変えないまま、相談を続けた。話し込んでいると窓の外から光が差し込んで、鳥の鳴き声がそれは朝日なのを教えた。この差し込む光が何か吉兆の暗示だったのなら、そんなやけっぱちな懇願が当時の私に浮かび上がった。






 螺旋階段の奥へ進むと段々暗くなり、一定間隔で松明の光によって明るくなる。その妖しい光には眩くもなく吉兆も感じられない。むしろこの光は不安を掻き立てる光に思えてしまう。

 あの時には分からなかった。彼は結局変わってなかったんだということは。

 最後の最後までどっちつかずで、時には嘘をついまで退路を確保していたディアベルの本質は正義じゃなかった。彼はただ立ち上がる理由が欲しかっただけだった。自分を追い込んでやっとフロアボス攻略のためにリーダーとして闘った、強くもなく弱くもない等身大の人間、それが彼だった。

 いや、それでも彼はきっと心優しい人だったんだろう。自分を追い込んでまで闘ったディアベルは、何もしなかった私なんかよりはずっとずっと強く優しく勇敢な人だったんだろう。

 でももし、もしも彼が私利私欲に走らず最後まで公平性を持ってレイドに貢献していたら、間違いなく彼はゲームオーバーにならずに生き残っていた。きっとそここそがディアベルの弱さだった。

 彼の弱さの原因は、天秤(てんびん)のように揺れ動く心理からきていた。でもディアベルに限らず、今まで私の出会った人達は皆それを持っていた。利益と大義を天秤にかけてユラユラとどちらが大事かを量る時間は誰もがそれなりに必要で、長い人だと一生かかっても測りきれない。今、始まりの街で動けないでいる人達がそうだろう。命が重すぎて『生活』を放棄してしまった、そんな人達もいる。

 けれども揺れに揺れて決断を下した心の天秤は時に嘘を吐くし間違いもする。ディアベルの場合、天秤は間違っていたんだろう。利益に傾いた彼の天秤は、きっと僅かに(いびつ)な形だったんだろう。その見た目では分からない程度の歪さに、彼は殺された。

 私がそう思った時――ディアベルが死んだ時――全身が竦んだ。ディアベルの死を悲しむよりも先に、私は自分の結末を覗いたような気がして恐ろしくなって震えた。ああやって私も何気ない一瞬の間違いで死ぬんだ。そう思った。

 怖かった。身近な人が死んで、絶対死なないと心の隅で思っていた人が死んで、自分の身にも降りかかるんだとやっと実感した。

 ディアベルの弱さは私も持っている。だから、私も死ぬ。私だけじゃない。皆持っている弱点なんだから結局、遅かれ
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