見える綻び、見えざる真実
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現在、白馬に居座る袁紹軍の士気は上昇傾向にあった。
それというのも、曹操軍が白馬を放棄し、延津の陣すらも放棄した事に起因している。城拠点の制圧は兵達の心に安息を齎す。屋根がある場所、壁がある場所というのはそれほどこの大陸のモノにとってはありがたいモノだ。
ただ、白馬制圧部隊の軍師であった郭図はもう一度の戦闘を予想していたのだが、被害が少なくて何より……との思考には落ち着かない。
まさかたった一度の戦闘で引き返すなど思いもよらなかったのだ。より多くの敵を残してしまった、という結果が彼を不機嫌にさせる。
白馬にて多くの兵に休息を取らせている中、曹操軍が戦線を下げた事で袁紹軍は一つに纏まり、これからの方策を練る為の軍議を開いていた。
「クカカっ! 無様だなぁ……張コウよぉ」
下卑た笑い声が良く耳に響いた。侮蔑、嘲り、愉悦……郭図の表情には人のそういった感情がありありと浮かんでいる。
見据える先には一人の少女。袁家の二枚看板を凌ぐ実力を有する張コウ――――明である。だらん、と片手を下げて痛々しく布を巻いた彼女は舌打ちを一つ。
延津の戦闘は袁家側の優勢で終わったが、秋蘭との一騎打ちで明は肩と腕に矢傷を受けた。
将の負傷は兵達の士気を下げる。それが袁家で一番の将ともなればより大きい。さらには、延津と白馬の中間地点に据えた集積所の船も燃やされたとあれば尚のこと容易に。延津の兵達は他の部隊にその士気低下を広げない為に、白馬と延津の中間地点に待機させてあった。
白馬を取れた郭図は、敵を思うより減らせなかった事での機嫌も、嫌いな明が曹操軍にしてやられた事で上向いていた。
「夏侯淵なんぞに遅れを取りやがったのか。まーた手ぇ抜いてたんじゃねぇのかぁ?」
心底バカにしたように、は……と息を吐いた。にやにやと歪んだ顔を見て、猪々子も、斗詩も……不快気に顔を顰めた。
「言い訳はしないよ。討ち取れなかったのはあたしのせいだし」
目線は斜め上に、目を合わせようともしない明の一言。
勝てる戦いだったと終わった今ならよく分かる。近接戦闘に持ち込み、体力の続く限り鎌を振るえば弓兵如き相手にはならない。
それをしなかったのは、斗詩の救援とより多くの兵を殺す為に体力を温存しておきたかったからだ。
やはり、自分は誰の実力も信用してはいないのだと、明は自嘲の意味を込めてくつくつと喉を鳴らす。
郭図の瞳には冷たさが宿った。
「……お前、武人にでもなったつもりかよ」
責める視線は苛立ちが強く滲み出る。
猪々子は首を捻ったが……斗詩は顔を蒼褪めさせた。
明の本業は人を殺す事。武人の真似事など、郭図は求めていないのだ。
「……何が言いたいのさ」
「だまし討ち……出来ただろ? 毒矢や
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