見える綻び、見えざる真実
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を掛けてあげる」
合わされた黒に、明の目線がブレた。思いやりと、慈愛と、優しい色。大事な大事な宝物が一番愛しいと感じる時の色。
「私が真名を預けた人達は、私の望む世界を作るのに必要な人達。だから、殺しちゃダメ、ね?」
疑わしきは殺せばいい。それが明の考え方である。夕が望むなら、殺すことは出来ない。
間違いなく呪いであり、彼女の願い。それを壊す事だけは、明はしない。
「分かった。夕が殺せって言わない限り殺さないよ」
いい子、と言って口付けを落とした。甘い、甘い口付けだった。
人を信じられない狂った少女をどうか助けられるように。そんな願いを込めて、自分の心を分け与えるような……そんな口付けだった。
一人の少女は、彼女の存在を確かめながら……ぽつりと、斗詩の問いかけに対する本当の答えを呟いていた。
――戻りたいなんて思わない。例え自分が幸せになれるとしても、大切なモノと過ごしたこの時間は、嘘にしてしまいたくない。
†
高い金属音が鳴り響く。天にまで届こうかというその音は、聞く者の耳を突き刺した。
「……もう一度だ」
黒髪の麗人は肩に大剣を構え、空いた片手で地に伏せる美女に挑発を一つ。
細い剣を地に突き立て、美女は笑う。両の眼に宿る光は獣の如く、轟々と燃える炎が幻視されるほど。
ググッと立ち上がり、秋蘭は片手で剣を構えた。だらり、と垂れ下がったもう一方の手は、武器を握れるはずもない。
「はぁぁぁっ!」
裂帛の気合。剣を扱う武人より劣り、兵士よりは速く強い一閃……のはずが、兵士にすら劣る一撃になっていた。
誰が見ても、春蘭に向けるには足りえない剣戟。振るのが遅れても、春蘭は動じない。遅れたまま、秋蘭の剣戟よりも速く強い一閃を斜めに叩きおろし、彼女の手から武器を弾き落とした。
そうして、よろけた所を横合いから蹴り、転がす。また秋蘭は泥に塗れた。
「ふん……もう一度だ」
凪か、沙和か、真桜か……優しい彼女達の内の誰かが口を開こうとした。いや、同時だったのかもしれない。
されども……
「こういう時は黙って見とり。春蘭の為にも、秋蘭の為にもならへんで」
霞の一言、厳しい声に圧されて何も言えなくなった。
もう打ち倒された数は三十を越える。それでも秋蘭は立ち上がり、怪我をしているにも関わらず姉に挑まされ続けていた。
弓は持てない、弩も使わせて貰えない、剣など持てるはずもない。そんな状態で、もう一度、もう一度、と。
「ぐっ!」
また、秋蘭が引き倒された。立とうにも力が入らず、地に伏してもがく。足掻いても足掻いても、春蘭は見るだけでなんら手助けなどしない。
「どうした? 華琳様
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