見える綻び、見えざる真実
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だったから、今くらいはやめておこうと諦めた。
その様子をじっと見つめる少女が一人。
「顔良、文醜。私の真名を預ける」
ピタリ、と二人の脚が止まった。
驚愕のままに振り返ると、無表情な夕が明の腕の中で、黒い瞳を渦巻かせて見つめていた。
明は何も言わない。夕がする事に、口を挟む事はもう無い。
「夕って呼んでいい」
猪々子は喜びから頬を緩ませ、へへっと笑った。
斗詩は、歓喜から口に手を当てて、ふふっと笑った。
「あたいは猪々子だ」
「私は斗詩」
「ん、これからもよろしく。今回の戦が終われば全てのカタを付けられる。だから……」
黒瞳が揺れ、唇が僅かに歪んだ。
昏く見えるような笑みを、斗詩は一生忘れる事が無いだろう。
真っ直ぐに射られた視線は、斗詩にだけであった。昏い暗い、冷たくて残酷な瞳は、斗詩の笑顔を凍りつかせた。
「余計な事は、しないで?」
さっきまでと話す声音は同じ。場の空気も穏やかなまま。張りつめる事も無いはず。なのにその言葉が、斗詩の胸に突き刺さった。
何処まで読み取られているのか分からない恐怖が押し寄せ、懺悔を思わず零してしまいそうになった。
「じゃあ頭使うのは夕に任せる。あたいは目一杯楽しんで戦うだけだ」
猪々子は真名を許された嬉しさからか気付いていない。声が遠くに感じた。黒の上、黄金の瞳が斗詩の方を向く。聡い彼女が斗詩の所作に気付かぬはずもない。
探るような視線を向けられて、どっちだ、と瞬時に思考を回す。
此処で洗いざらい吐けばいいのか、それとも黙って何も言わずに言われた通りに動けばいいのか……黒い少女を見やると、指を口に当てて、直ぐに離した。
――何も……言うなってこと? 田ちゃんは、何処まで予測してて、何を考えてるの?
「うん、大丈夫」
短い返答しか出て来なかった。明の雰囲気が僅かに変わるが、夕が甘えた視線を上に向けた事で落ち着いた。
「じゃあ、またな!」
「ん、また。斗詩、猪々子」
「いってらっしゃい」
斗詩だけは微笑みを返しただけで、天幕の外に出て行った。
しん、と静まり返った幕内で、夕と明は視線を合わせた。
誰かを切り捨てる時に浮かぶ冷たい金色の輝きと、誰かを思いやる時に浮かぶ甘い黒の色彩。
「やっぱりなんか隠してるね、あいつ」
「気にしないでいい。裏切る事はない。大体の予想はついてる……だから信じてあげたらいい」
「……夕がそう言うなら」
ふっと息をついて、夕は膝の上でくるりと器用に身体を回転させ、明を抱きしめた。
温もりが伝わる。愛しい愛しい温もりが。共依存の二人には、切っては放せぬ大切な体温。
「ゆっくりでいい。私以外の人を信じる事も覚えて。あなたに呪い
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