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乱世の確率事象改変
見える綻び、見えざる真実
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でも明が抱えて逃げればいい」
「ありゃ? あたしも行くの?」
「官渡を見て来て。あなたの目と嗅覚があれば、おかしい所も見分けられるはず。追撃に対して明にしか出来ない事もある」
「……そういう事ね。りょーかい」

 明は唇を舐めた。言い含められたモノは彼の事が一つ。追撃を仕掛ける為に黒麒麟が出て来るなら……少しでも心に楔を打ち込むべき。
 もう一つ。秋蘭が明を捕えようとしていた為に、囮としての機能を果たせるだろうと考えて。
 他の将が出てくるなら逃げるか殺すかするだけだが、秋斗が出てきた場合だけ、明は動きを変えようと心に決める。

――秋兄かぁ……出てくるかな? あの時の事、伝えとかないと落ち着かない。聞きたい事も話したい事もいっぱいあるし、夕の為にも捕まえちゃいたいんだけど。接敵するなら阿片の予備……使っちゃうかー。夢うつつに取り込まれたら斗詩と二人で掛かれば捕まえられるでしょ。

 医術の知識を仕入れている明は、殺さずに捕える方法を使おうと心に決めた。
 この時代の医の技術は拙い。純粋精製した麻酔などまず無い為に阿片が用いられる事もしばしば。
 現代で麻薬として広く認識されている阿片の効果を、明は食事場での人体実験で知っている。使いすぎるとどうなるかも、知っている。
 捕まえたらどうやって言う事を聞かせよう……そんな考えが浮かび、嗜虐衝動が湧きあがり始めるも、夕が口を開いた事で遮られた。

「官渡はこれでいい。白馬に残す兵数は一万。烏巣の陣構築と糧食の輸送には馬を全て使う。本初の所に蓄えて置いたから、全部こっち側に持って来させてる」
「白馬に置いて振り分ける……なんざしねーよな?」
「当然。白馬は少し遠い。補給路が断絶されたらそれだけで詰む危うさが出てくる。延津に五千の兵と船をばらけさせて置いて、糧食と物資は随時、烏巣と陽武に振り分けるべき」
「……上手く行くんだろうな?」
「行く。曹操が官渡に到着次第、向こうは動くはず。官渡の第一戦闘で釣られてのこのこと出て来てくれる程度なら……私達の勝ちは濃くなる」

 その程度の頭脳しか持たない相手なら、此処までめんどくさい周り道はしなかった。甘い考えを打ち捨てて、最悪の状況まで読み切らなければ夕に未来は無い。

――でも、敵を打ち負かす最後の方法は……あなたにも話してない。ごめんね、明。

 信頼から、明は夕に策の全容を聞くことはない。夕の頭に浮かんでいる勝利の方程式には、明に教えるという選択肢が含まれていなかった。
 聞けば必ず、彼女はこの軍を見捨てるだろう。夕だけを連れて曹操軍に投降するだろう。母の身が大事な夕にとっては、今教えてはならない策であった。

――この戦、あなたが勝敗の全てを決める鍵。人を信じられないあなたには酷だけど、私を信じてくれてるから
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