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乱世の確率事象改変
見える綻び、見えざる真実
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殺された。

 誰も敵う事のない武を持つ彼女に殺された。

 仲間になった時もあったのに、優しい子なのに、敵になるとあんなに恐ろしい。


 九度目、やはり誰かを犠牲にしないと彼女はあの戦から後、生き残れない。

 それが分かると、自分の心は壊れてしまった。

 彼女の遺体の前で、涙さえ零れなかった。

 虚無感と絶望感とが綯い交ぜになり、昏い願望が次々と湧き出してくる。

 耐えられなかった。

 耐えられるわけなかった。

 憎しみなど無かった。

 敵も知っている。

 味方も知っている。

 誰も彼も知っている。

 知り合いとばかり殺し合う。

 同じ顔、同じ声、同じ性格

 どうしてそんな優しい人達と殺し合わなければならないのか。

 曖昧に溶けて消えてしまいそうな自己認識を繋ぎ止めるのは

 たった一つ、彼女の笑顔だけ。自分にはもう、それしかなかった。

 強欲の果てに、彼女が救われる事だけを望んでいた。


 ホラ、カノジョヲスクウホウホウヲ、ジブンダケハシッテイタ


 忘れていたのではない。

 ずっと思考から外していたのだ。

 見ない振りをしていたのだ。

 仲間が大切になってしまったから

 友が大切になってしまったから

 彼女達を切り捨てる事を頭の中から放棄していたのだ。

 気付いてしまえば簡単な事だった。

 そう……こんな場所、捨ててしまえばいい。

 後で仲間に出来るのなら、捨ててしまえばいいのだ。

 もしかしたらそうかもしれない、いや、そうに違いない

 この終わらぬ再演を抜け出すには

 あの忌まわしい戦で、この場所を捨ててしまえば彼女は救われるのかもしれない。

 だから……今度こそは……



 十度目、彼女は死ななかった。



 忌まわしい、最悪の、抗い切れない運命。

 予定調和の道筋を捻じ曲げ続けたのに

 予定調和に従えば救われるとはなんたる皮肉か

 無駄な事をしていたのかもしれない。自分だけは、初めから彼女がどうなるか知っていたのだから。



 忌まわしい“官渡の戦い”を越えて……彼女と自分は生き残った。

 乱世の果てに、確かに生き残れた。






 大事だったはずの袁家を、生贄に捧げて

 大切だったはずの友達三人を殺し尽くして

 こんなモノが、望んだ幸せだったのか。

 愚かしい自分は、彼女が生きているだけで幸せだった。






 それでもやはりこの世界は

 残酷でしかなかったらしい。


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