暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
見える綻び、見えざる真実
[12/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
うんだが……他の誰かじゃ起こらんだろ」
「んー、でもウチは秋蘭と似たようなもん経験済みやなぁ」

 感慨深く、霞はほうと息を付いた。思い浮かべるのは一人の友。自分があの時張った意地は、結局自分の為でしかなかった、と。
 凪達はその話に聞き入っていた。霞の眼差しが遠く、誰かを失った想いを映し出していたから。
 殺した存在であるモノが聞いていいものか迷ったが、秋斗はふと、霞に尋ねてみたくなった。

「……どんな気持ちだったよ?」
「押し付けっちゅうか自分勝手ちゅうかそんなんやな。振り返ってみやな気付けへん事やけど。あの時は頭ん中が月の誇りを守る事と華雄の雪辱を晴らす事でいっぱいやったし。でもな、ウチは春蘭のおかげで真っ白になるまで戦えた。そんでもってその後に、部隊のバカもん共のおかげで華雄と一緒に戦ってたウチを思い出せた。あん時気付けたウチは、恵まれてたんちゃうかな」

 そう言って霞は目を瞑る。頬が少し緩んでいた。胸に手を当てると、あの時の高揚感が思い出せた。
 肉を打つ音が響いた。春蘭が秋蘭の頬を打ったのだろう、と霞は思った。
 次に泣き叫ぶ声が聴こえた。すまない、ありがとう……と零すモノは、少し、羨ましく感じた。

――華雄も、あんな風にウチを怒ってくれたんやろか? いや、どてっぱらに一発、きついのくれるか。そんで……酒やな、にししっ。

 猫のような笑みを浮かべて、豪快な彼女を思い出す。
 死んだ人間の事は分からない。自分の中にある人でしか分からない。でも……思い出を共有するモノが幾人も居たのなら、曖昧なカタチが少しだけはっきりとする気がした。
 月と詠に再び出会えたから、霞はもう誰も憎んでいない。大嫌いだが、明の事も割り切れていた。

「自分勝手、か。じゃあ……」

 小さく声が漏れるも、先に続く言葉は零されなかった。
 目を開いた霞が訝しげに見つめるも、横目で見た秋斗はいつものように苦笑するだけ。

「どしたん?」
「ん、いや、なんでもない。それにしても……あいつらは羨ましいな」

 クイと顎で示された先には、楽しそうに笑う春蘭と秋蘭が居た。
 微笑んでいるはずなのに、秋斗の表情は寂しげに見えた。何を考えているのか、とは霞もこれ以上問わず、

「ま、なんやわからんけど辛ぅなったら言いや。
 しゅーんらーん! 次はウチとしようやぁ!」

 にしし、とまた猫っぽく笑ってから駆けだした。凪達も秋蘭への心配が溢れたのか、その背を追う。
 微笑みを浮かべたまま、彼は目を瞑った。

――俺は自分勝手で構わない。それでも笑ってほしい人が居る。

 憎んでくれていい、怨んでくれていい、それでも生きて欲しい人達が居る……月に生きてくれと懇願したのは、そんな想いから。
 こんなマガイモノの命
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ