見える綻び、見えざる真実
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毒槍も使えたはずだ。ただ殺すだけに何を手段なんざ選んでやがる」
「お前っ――――」
「単純バカは黙ってやがれっ」
卑怯な手段を提案されて、猪々子が激発仕掛けるも、郭図の普段よりも真剣で必死な声に口を噤んだ。
自分の命が掛かっている状況で、誰しも、本気で戦わない相手に怒るのは当然。それを醜いと思うのは、傍観者か、力ある者達の傲慢ではなかろうか。
やっと目を合わせた明は、大きくため息を一つ。
「あー出来たね。のこのこ一騎打ちに乗ってきた所をあたしの兵で殺す事も、毒使って夏侯淵とか楽進、于禁を殺す事も」
「なんでやらねぇんだ? 勝つつもりねぇのか?」
「そんなんで殺したら新兵を昇華させるには足りないよー。毒使って楽に勝つ事覚えたら、せっかく擬似死兵を育ててるのに甘さが残るじゃん。弱い兵に守られて死にたいならいいけど」
「ちっ……ならいい」
一応、理に適った反論であった為に、郭図は舌打ちと共に話を切った。
兵士は精強であればある程にいい。袁紹軍は曹操軍に比べて練度が足りない。各々の受け持つ部隊は問題ないが、十万を超える兵の大半は力不足に過ぎる。
今回ほとんどが逃げ出さずに残ったのも、明と夕が恐怖の鎖で縛り、生きたいという衝動を隅々まで引き出したからだ。
人は堕落する生き物。楽な手段を覚えればそれに引き摺られる。油断、慢心と言ったモノは、戦場に於いて何よりの敵である。
袁紹軍とは違い、曹操軍は兵の数こそ少ないが率いる有力な将の数が多い。一人ないし二人討ち取る事と多くの兵の成長を秤に掛けたなら、明と夕は後者を取る、ということ。
郭図にしても、自分の命を守る兵士は強い方がいい。さらには、使い捨ての容易い擬似死兵として扱えるようになるのなら、彼のような軍師としては嬉しい限りである。
「下らない話はもういい?」
呆れたようにも、怒っているようにも聞こえる声を夕が発し、視線が一斉にそちらに集まる。
彼女の顔は蒼い。大切な友が、戦闘に支障を来す程の怪我をしたのはこれが初めてである為に……取り乱す事は無くとも、心の負担が大きかった。
「……ああ、構わねぇよ」
夕を責める事も出来るが、郭図はしなかった。
些細な違和感を覚えた明であったが、白馬から送った兵を霞にやられた事が効いているのだろうと切って捨てた。
目を瞑る。じっと感覚を研ぎ澄まし、天幕の周りに人が居ないかを確認。やはり自分達以外、此処には誰も居ない。明は夕と目を合わせて、その意を伝える為にコクリと頷いた。
「じゃあ始める。船の襲撃が一番の問題。長距離から火を仕掛けられる兵器が向こうにはある」
「火矢……ってわけじゃあねぇんだな?」
「ん、瓶の割れる音がしたって言うから、きっと固形物を撃ち出せる兵器」
「へー……敵も
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