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SAO−銀ノ月−
第七十話
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わせている里香を無理やり引っ張り、明日奈の病室から逃げるように立ち去った。去り際に『須郷さん』――ということを強調して言うしか、今の俺に出来ることは、無かった。


 俺たちが病室から出るとき、彼は――須郷はにこやかに看護士に挨拶をしていた。その様子からは、まるで先程までの一面を感じさせなかったものの、蛇のような目はこちらを捉えたまま――静かに笑っていた。


「やあ一条くん、奇遇だねぇ」

 そんな最悪の気分のまま病院から出た俺たちを、さほど呼ばれる機会がない俺の名字とともに待っていたのは、胡散臭い笑顔だった。恩人だろうに妙に信用出来なさそうな雰囲気は、先程の須郷とも良い勝負だろう。

「……建物の前に車で待ち構えてるのは、奇遇って言いませんよ……菊岡さん」

 自称、SAO事件対策本部のしがない公務員こと、菊岡さんと高級そうな車が病院前に鎮座していた。くたびれたスーツ姿のこの役人は、こうして奇遇だと称してたまに接触してくるのだ……機嫌が悪い時を見計らったように。どうしても対応が刺々しくなってしまうが、当の本人はまるで気にしていないようだ。

「ん? そうかい? それにしても君、この前会った時と違う可愛い女の子連れてるけど……まさか浮気かい?」

「里香。この人はSAO事件対策本部の菊岡さん。色々お世話になってるんだ」

「えっと……よろしく、お願いします」

 菊岡さんの言葉を華麗にスルーしつつ、里香に菊岡さんを紹介する。お世話になっていることは、まあ……確かだ。妙なテンションで軽快に話している菊岡さんに、SAO事件対策本部という自分たちを助けてくれていた者たちのイメージが崩れたのか、何とも微妙な表情で里香は挨拶する。

「紹介された通り、SAO事件対策本部の……まあ、君たちには悪いが対策らしい対策は出来なかったけども……菊岡誠二郎だ。よろしく」

 慣れた手つきで素早く名刺を胸ポケットから取り出すと、必要以上に恭しく里香に礼をしつつ、名刺を無理やり彼女に渡す。……わざわざこちらから言うことではないし、向こうからもわざわざ言ってはこないが、菊岡さんは里香が《SAO生還者》だということは分かっているだろう。わざわざ『奇遇』にも病院の前であったのだから――当の菊岡さん本人は、俺のそんな思いを知ってか知らずか、高級車のドアを開けつつこちらを手招きしていた。

「ささ、積もる話もあるだろうし、タクシー代わりに使ってよ」

「えーっと……」

 名刺を貰ったとは言え、流石に初対面の怪しい人物の車内に乗ることには抵抗があるらしく、里香がこちらへと視線を送ってくる。これからリハビリも兼ねて、キリトが待っているだろう《ダイシー・カフェ》に行く予定だったが……まあ、今日のところは『奇遇』にも会った菊岡さんに甘えさ
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