黒のマガイモノ
[2/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
る」
当然、後ろに侍って付いて回っていた少女の事も、長老は見てきた。
張りつめた空気は嫌悪を含み、雛里に突き刺さる。
「夜天の願いが失われようとも、徐晃様が我らが王の為に戦っておられるのは分かっておるが……」
目を瞑り、三人の友が交わした願いに想いを馳せた長老は、たっぷりと時間を置いて、
「何も死者を戦場に立たせずともよいでしょうに」
雛里を睨みつけた。
それは静かな怒気であった。心の内より湧き上がり、相手に冷たさを染み込ませるような。
「確かに、王に対する忠義を守らぬ大馬鹿者共は、待つだけしか出来ぬ不甲斐無さから徐晃様の元に馳せ参じるじゃろう。義は彼にあり、とな。わしらではもう止められん……あの歌が心にある限り」
毎日誰かが歌うから、心に募る不満は吐き出す場所を求めてしまう。
民ならばいい。力無き民なら、生きる糧に出来るから。平穏に暮らし、自分達の幸せを守ろうと……袁家に憎しみを向けながらも変わらない生活が出来る。民は力持ちし指標か、大きな理由がなければ立ち上がれない。力も指標も無き者達が義勇軍を起こすのは並大抵では出来ないのだ。弱き人々は自分達を支配してくれる統率者を求め、代わりに責を肩代わりしてくれる責任者も欲するモノである。
しかし白馬義従は……幾多も防衛してきたという確固たる自信を持つが故に、自分達の力を抑え切れない。言いつけられていた命令を守って誤魔化していた気持ちは、誰かがそっと背中を推してやる事によって弾けてしまった。
“集え白馬に”
誰と共に行くのか。統率された連携が持ち味であるのだから、率いる誰かが必要だ。なら……誰と行く?
火を付けられたのは噂話。白と黒の話をしていたモノ達に聞けばいい。愛する主が友の胸で泣いた事を知るのは、黒の身体しか居ない。
そうして……彼らは白馬に集う前に、白馬義従としてカタチを為す場所を教えられる。わざわざ幽州から離れた場所……桂花が構えている陣に。一人、また一人と増えて行く。
幽州に向かう前、雛里は鳳統隊を民に紛れさせて、兵士達に慟哭の夜の出来事が知れ渡るようにと潜ませていたのだ。
街々に於いて、ある者達には酒屋で声を大にして語らせ、ある者達には民達に語り継いで噂を流させ……そうやって白馬義従にだけ効果のある策を仕掛けた。
敵はこの地を踏み躙った侵略者。どうしてこの機を逃せようか。向かう城の名は自分達の主に所縁のあるモノで、自分達が従うはずの名でもあるのに……これを天の計らいと言わずしてなんという。
長老は白馬義従が向かう程度なら問題ないと思っている。憎しみはそれほど抑えがたく、忠義に反してでも白蓮にナニカを返したい気持ちも痛い程に分かるが故に。
ただ、雛里が願っているもう一つの策だけが……認め
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ