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Magic flare(マジック・フレア)
第6話 回転木馬ノ永イ夢想(後編)
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愛するあさがお。お母さんは怒っています。何故ならあなたが送ったはずのお手紙を、あの看護師が盗んでいることが間違いないからです。現に二ヶ月前、あの拾ったキジトラ猫について書かれたお手紙を受け取って以来、私はあなたからのお手紙を一通たりとも受け取れておりません。あなたは聡明な娘ですから、お手紙と、また前回ラジオを利用しような、新しい連絡手段を講じているところでしょうが、あなたの選び抜かれた言葉で書かれた美しい文学的な情緒のお手紙を受け取れなかったことが残念でなりません。ああ、私もラジオを使えたらいいのに。ラジオが使えたら奴らの非道さと迷惑行為を世界中に知らしめてやれるのに。お母さんより。

 ※

あさがお。私のあさがお。今や世界にたった一つの私の愛。私は本日ようやくあなたからのお手紙を受け取ることができました。あのキジトラ猫は結局怪我が治らず死んでしまったのですね。お母さんも残念です。ああ、この病院を牛耳っている迷惑電波を利用したストーカー集団どもがあなたを悲しませるためにやったことでなければいいのですけど。お母さんはついにあの看護師が人の物を盗んでいる場面を目撃したのです。おとといのことですが、私が交流室の窓から向かいの病棟の男を監視していると、中庭にいた患者がハンカチを落としました。しばらくして、あの看護師が現れて、ハンカチを見つけると、それを拾い、白衣のポケットにねじこんで、こそこそと、早足で去ったのです。その時中庭にいたのは、その患者だけでしたから、ハンカチが患者の落とした物であることは間違いないのに、看護師はその患者に声をかけず、黙って持ち去ったのですから、これは悪意を持って盗んだに違いありません。私はこれ以上悪を見過ごすことを我慢できませんから、その看護師を捕まえて、悪事を追求したのです。そしたら看護師は、あれは盗んだのではなく落とし物を拾ったのだから、落し物ケースに入れたと言って誤魔化すものですから、その女を引っ張って一階の落し物ケースに行くと、卑劣にもすでに手が回されていて、何食わぬ様子でハンカチがしまわれていたのです。お母さんはこれほどの侮辱を受けたのは初めてです。しかし、あの女はお天道様は全てを見ていることを知らないのでしょうが、お母さんは知っています。あの女はお母さんのバッグを置き引きしたのと同じ女で、精神病院の前で泣き叫んでいた女です。あの女もまた別の面では哀れな被害者です。しかしあさがお、お母さんは心を鬼にして、慈悲を捨て、あなたの為に気高く戦います。お母さんより。

 ※

 あさがおが家から出てきた。クグチは電磁体を可視化する眼鏡越しに、坂の上から様子を窺った。眼鏡越しには静かな町に見えるが、実際には救助隊が最低限撤去しただけの、瓦礫が散乱するか細い道があるだけなので、危ないことこの
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