第6話 回転木馬ノ永イ夢想(後編)
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上ない。クグチは肉眼で足下を確かめながら、あさがおの後を追った。
彼女は何かを探すように足もとをきょろきょろ見ながら歩いていたが、いきなり立ち竦んだ。クグチは眼鏡越しの視界と肉眼での視界の両方で、彼女が立ち止まった理由を探した。
特殊警備員の車が坂の下にある。
車から二人、特殊警備員が下りてきた。地図を見て、何か相談している。あさがおのいる坂からは死角になる。
クグチは走った。
「こっちへ」
あさがおが困惑して振り返る。
「いいから、早くこっちに来てください!」
クグチは、後ろにあさがおを連れて彼女の家まで戻った。あの特殊警備員たちに見られていないことを祈りながら。
「どうして立ち止まったんですか?」
「えっ?」
「あなたは何かが起こると思ったから立ち止まったのでしょう」
あさがおは困ったような顔をして、しかし、躊躇ってから答えた。
「予感がしたんです。何か……良い予感か悪い予感かわからないけど」
クグチは真顔であさがおの表情を観察した。
初めて彼女のもとを訪ねた時、彼女は呼んでもいないのに家から出てきた。電磁体には特殊警備員が、あるいはUC銃が、わかるのか? クグチはその想像にぞっとした。だとしたら、電磁体は都市データベースを基盤に生存本能を獲得しつつあるということだ。
電磁体は生き物じゃない。激しい動悸がし、目眩を感じた。これは生き物じゃないし、これは姉さんじゃない。
「あの、上がってください」
あさがおの声がした。
「あなた、助けてくれたんでしょ?」
「いえ……」
「それに、顔色がよくないです」
「大丈夫ですから。もう、行きますので」
この家は、実際には半壊している。人間には入れない。
「私を、何から助けてくれたの?」
「言えません」かぶりを振り、「いろいろ……今まであり得なかったようなことが、都市のあちこちで起きてますから」
「企業秘密ね」
あさがおはうっすら微笑んだ。
「こんな時に、守護天使がいてくれたら心強いのに。でももう駄目ね。私、レンズを全部なくしてしまったの。だからもう見えない」
自覚のない死者から、クグチは目をそらした。幼い頃あれほど思った家族に、けれど唐突すぎていまだ家族の実感を得られない相手に、かける言葉がなかった。
これを家族と思いたいなら、これを人として弔わなければならない。それをしなければ、自分には何も残らない。
そうしなければ、きっともう自分で自分を人間だと思えない。
「……ご家族が亡くなったというのは、ご病気で?」
あさがおは少し首を傾げ、
「……ええ……母は、病気で」
精神的な病、と、強羅木は言っていた。その死が悲惨なものでなかったことをクグチは願った。
「父親はいないのですか? 他に親戚の方とか」
「父親は」微笑
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