第十四章 水都市の聖女
第一話 死者と聖者
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駆け寄ってきた大臣は、勢いそのまま跪いたためか、前へゴロリと転がり床へと額を強かに打ち付けた。数秒額を抑えながら痛みに耐えた大臣は、涙が混じる声でジョゼフに謀反について報告する。
「む、謀反は東薔薇騎士団っ! す、既に警護の者を蹴散らし、こ、このグラン・トロワにまで侵入してきておりますっ! げ、現在“鏡の間”において親衛隊が防衛線を敷いておりますが、それも時間の問題と思われますっ! そ、そそ、早急に地下通路で脱出をっ! わた、わたしの護衛隊が警護を仕りますのでっ」
本来ならばいくら勇名名高き東薔薇騎士団相手とは言え、ここまで簡単に侵入を許す筈はなかった。しかし、件の“陰謀”のため多くの部隊や騎士団が出払っているため、今王宮の守護をしているものは、メイジでもない傭兵が数百人にメイジが二十名程度。数の上では圧倒的に有利ではあるが、八十名いる東薔薇騎士団員は全員がメイジ。メイジではない者が何百人いようとも、精々壁になれば良い方であり、戦力に数えることなど出来はしないのだ。つまり、数の上でも質の上でも劣っている王宮側の勝利の可能性は零と言っても何ら問題はない。
それがわかっているからこそ、大臣は王と共に逃げ出そうと必死なのであった。
だが、当の狙われている張本人であるジョゼフはオルゴールから耳を離さず、大臣を一瞥しただけで目は閉じる始末。身体をゆっくりとメロディーに合わせるかのようにユラユラと揺らしている。
その余りの緊張感の無さに、大臣は王が死を前に現実逃避しているのだと考え、自分一人でもどうにかして逃げられないかと周囲を見渡していると―――、
「―――ひ」
―――遠くで聞こえていた剣戟の―――魔法の―――戦いの音が途絶えた。
つまり、それは……。
その意味は明白である。
変え用のない現実を前に、大臣はガクガクと遠目でも分かる程大きく震えながら玉座の間の入口へと視線を向ける。大臣に付き従っていた護衛の者たちも各々杖や剣を入口へと向けた。間もなく勝者である東薔薇騎士団の面々が現れるだろう。護衛はメイジを含め十人。時間稼ぎも満足に出来はしないだろう。
自分の心臓の音が耳にうるさいほど大きくなり、どれだけ呼吸をしても足りず、ぜえぜえと犬のように下を出して激しく息をする大臣の前に―――ソレは現れた。
「―――ぁ?」
最初、ソレが何なのか大臣には分からなかった。薄暗い王座の間に次々に転がり込んでくるボールのようなもの。しかし、形が歪なのか、真っ直ぐ進むものは殆んどなく、王座の間に広がるようにソレは転がっていく。大臣とその部下たちは、杖や剣を構えるのも忘れ、何処か呆けたような表情で近付いてくるソレを見つめている。ソレはゆっくりと転がりながら王座へと近づいていき―――その正体を現した。
ソレが何なのか理解
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