第十四章 水都市の聖女
第一話 死者と聖者
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! 目を離す―――」
「―――え? ッ!?」
老騎士の警告の声は、全てが若い騎士に届くより前に、森の闇の奥から飛んできた無色の風の塊により強制的に停止させられる。城壁に掲げられた松明の明かりが届かない位置に吹き飛ばされ、見えなくなる老騎士。そして若い騎士も同じく、目の前で起きた出来事を理解するより前に腹部に強烈な衝撃を受け吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり、背中に硬い何かが当たり身体が止まる。痛みと衝撃により意識が遠ざかっていく。
だが、せめて何が起きたのか確認だけでもしなければと、若い騎士が最後の力を振り絞り顔を上げると、そこには厳しい顔をしたカステルモールが、軍杖を先程まで自分が立っていた場所に向けている姿だった。つまり、味方であるはずの東薔薇騎士団の騎士団長が、自分に攻撃を仕掛けてきた。
「っ、ぁ、な、ぜ?」
その問いに、カステルモールは応えることはなかった。
背後から現れた部下たちが、警邏の騎士を縛り上げている姿を横目に、カステルモールはこれまでの事を思い出していた。
目まぐるしく変化する日々であった。
貧乏貴族に生まれ、将来に希望を見いだせなかった時、見込みがあるとの一言で自分を引き立ててくれた殿下。楽しいだけの日々ではなかった。辛いことも多くあったが、しかし杖を捧げるに相応しい尊敬する殿下の元、毎日が充実していた。いずれ殿下が王となり、自分はその下で支えていくのだと疑い無く信じていたあの日々。
だが、そんな夢は儚くも散ってしまうことになる。
殿下の兄とは到底思えぬあの愚鈍な男が王となった日から、全ては崩壊を始めた。
守るべき主の暗殺。
残されたオルレアン公夫人の暗殺未遂。
王女シャルロット様に対する死の宣告に等しい命令の数々。
―――何も、出来なかった。
決して見ていただけではなかった。どうにかして助けようと自ら動き、周囲に働きかけもした。だが、結局は何も出来はしなかった。動く端から全て封じられてしまい、そうこうしているうちに、全ては終わっていた。主を無くした自分たちは、嵐の海に取り残された小舟のようなもの。進むべき先も分からずただ沈まぬようにするだけしか出来なかった。騎士団の団長とは言え、相手は王。一介の騎士団長がどうにか出来るような相手ではない。
ギリっ、と噛み締めた唇から血が滲み、鉄の味が口中に広がる。
だが―――しかし。
あれから時が流れ、無能はその浅短を晒し、今や外だけでなく内にまで敵を作る始末。
今ならば―――今だからこそっ!?
カステルモールは決意を新たに心の中で強く頷いた。
あの日―――両用艦隊の反乱の報を受けたカステルモールは、始めからそれを信じる事はなく。直ぐに各地に潜む協力者から情報を
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