第十四章 水都市の聖女
第一話 死者と聖者
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士の話を若い騎士は否定することはしなかった。殆んど妄想や空想とさえ思える話を若い騎士が否定しないのは、それはこの老騎士の事を尊敬しているからである。入団してからこれまで教師の代わりをしてきた老騎士の凄さは良く知っている。家柄さえ良ければ、この老騎士は騎士団の一つや二つ軽く束ねていてもおかしくはない実力があることをよく知っているからだ。そして、この話を否定するほど、この年若い騎士はヒネクレ者でも、愚かでもなかった。それに、言われる前から若い騎士は自分でも薄々何かがおかしいと感じていた。
とは言えまだまだ疑問は尽きない。年若い騎士がその疑問を解消するため「それでは―――」と話を続けようとした時、丁度二人は王室の御猟場であるテーニャンの森へと視線を向け。そこで動く何かの影に気づいた。
「誰だッ!」
誰何の声と同時に“明かり”の呪文を唱え、テーニャンの森へと向ける。眩い光に、黒いローブを羽織った男の姿が浮かび上がる。既に二人の騎士は引き抜いた杖の先を謎の男へと向けていた。メイジの杖を突きつけられながら、謎の男は身じろぎもしない。若い騎士が杖を動かさず声を上げる。
「フードを取れっ!」
指示を拒否することなく、謎の男は顔を隠していたフードを外した。フードに隠されていた顔を見た若い騎士が息を呑む。隣でも歴戦の勇者である老騎士が目を見開いた。
「カステルモール殿っ!?」
フードの下から現れたのは、東薔薇騎士団団長であるバッソ・カステルモールであった。若い騎士とそう変わらない年齢ながら、一つの騎士団の長を任せられている男である。老騎士と同じく家柄は決して良いとは言えないが、他国にも轟く程の実力により騎士団長にまで任じられた、若いながらも数々の勇名を持つ騎士だ。そんなガリアの騎士でその名と顔を知らない者はいないと言ってもいい程の有名人を前に、しかし若い騎士は訝しげに眉根に皺を寄せた。
「東薔薇騎士団はサン・マロンに向かったと聞いていましたが、何かあったのですか?」
いるはずがない者がいる事に戸惑いながらも、何時までも騎士団長に向かって杖を突きつけているのはどうかと思った若い騎士が杖を下ろそうとするが―――
「フランダールッ! 杖を下ろすなッ!」
「―――ッはい!! え? あ、そ、その、どういうこ―――」
叱咤する老騎士の声に背筋をびくりとさせながらも、若い騎士は反射的に下ろしかけていた杖を再度カステルモールに向ける。騎士団に入団した時から教えを受けてきた老騎士の強ばった厳しい声に、若い騎士は思考を挟む間もなく条件反射的な動きで杖を動かしていた。そして、若い騎士はカステルモールに杖を突きつけ直した後、反射的に背後の老騎士に疑問を投げかけようとする―――が、それは間違いであった。
「―――ッ馬鹿者!
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