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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第一話 死者と聖者
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 ガリア王国の王都であるリュティスから遠く離れた郊外。そこには何処まで続くのか伺い知ることすら出来ない石壁がある。その向こうには、ガリアの王族が暮らすベルサルテイル宮殿があった。王都から離れた位置に王族の住む宮殿がある理由は複雑なものではない。単純にその宮殿が馬鹿らしいほどの規模がその理由である。その面積は、小さなものであれば一つの街がすっぽりと入る事が可能なほどの大きさだった。
 そんな巨大な王族の住居に向かう蠢く影の姿があった。
 時は深夜。
 唯一の明かりである双月と星は空を覆う分厚い雲に隠れており、伸ばした己の指先さえ目を凝らすも見えなほどの闇が辺りを包んでいる。
 だが、夜の闇を掛けるその影は、迷いない動きで真っ直ぐ宮殿へと向かって進んでいく。その速度や影の大きさから、どうやら馬か何かに乗っているようだ。影が進む先に、夜の闇を更に濃くしたような闇が広がる。大きな森が、影の前に立ち塞がる。まるで巨大な怪物が大きな口を開いて獲物が飛び込んでくるのを待っているかのようで。だが、影は躊躇することなく闇深き夜の森へと突き進んでいった。





「遂に反乱が起きてしまいましたか……。何時かは起きるだろうとは思ってはいましたが、まさか両用艦隊(バイラテラル・フロッテ)が反乱を起こすとは思ってもいませんでした。司令のクラヴィル卿は王政府寄りだと聞いていましたが、噂話等当てにはなりませんね」 

 宮殿を取り囲む巨大な石壁の下を歩く騎士が二人。壁石に掲げられた松明の明かりに浮かび上がるのは、老騎士と若い騎士の二人だけ。昼に降った雨から来る湿気に顔を歪めながら、一人の若い騎士がため息混じりにぼやく。ぼやきの内容は、つい先日ガリアの北西海岸にある軍港サン・マロンにおいて、両用艦隊が反乱を起こしたことについて。そのおかげで今やリュティスでは戒厳令が発令され、王都にあるほぼ全ての戦力が港へと向かっていた。噂によると、今も睨み合いが続いており、何時終わるのかさえ予想がつかないそうだ。
 鉛のように重いため息を耳にした老騎士は、南白百合花壇騎士団の同僚であり後輩である若い騎士に顔を向けると首を小さく横に振った。

「きみの悪いところは直ぐに結論を出すことだな。さて、その反乱自体も本当かどうか……わたしはそこも疑わしく思っておるよ」
「では、反乱の話はデマなのですか?」
「デマというよりも……振りをしているかもしれないな」
「振り、ですか? しかし、何故そんなことを?」
「さて、理由は分からんが、誰が命じたかは少し考えれば誰にでも分かる。クラヴィル卿は頭を下げて出世したと言われる男だ。矯正され調教された犬が、さて、飼い主に噛みつけるときみは思うのか?」
「つまり、それは―――」
「陛下の思し召しというわけだ」
「……」

 老騎
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