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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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 秋が日本列島を去り行き、代わりに冬が北から降りてきた。
 奥多摩の山々は葉を落として、空いた木枝から山肌が覗く。じきに雪がそれら全てを白く閉ざすだろう。
 木枯らしに吹かれる国立児童社会復帰センターは静謐で、人の動きはあまり見られない。
 陽も暮れ初め、気温は下がる一方だ。

「おわー、寒いなぁ……」

 義体寮の裏庭。アザミが北風に身体を震えさせる。
 この日、奥多摩は霜月らしからぬ一桁台の気温だった。
服は秋物を重ね着しているだけで、冬の寒さにはやや心許ない。急に来た寒気に、衣替えがまだ済んでいないのだ。
 衣替えと言うより、これがアザミにとっては初めての冬であり、そもそも冬服を持っていない。早急に温かい服を常盤に買って貰おう。
 アザミはおねだりの文句を考えながら、センターの敷地から集めに集めた落ち葉と枯れ枝を一か所に集積していく。
 十一月も中旬を過ぎ。小河内ダムの戦いから、二日が経っていた。
 負傷を負ったアザミは帰ったその日に修繕されて、顔の傷も殴打の痣も綺麗に消えている。
今日は、一昨日の作戦に参加した義体は午後から休みが与えられていた。
 久々に得た余暇を、彼女はセンター内の清掃に費やしている。
 これは自主的奉仕活動などでは無く、アザミがこれからしようとしている事に対して課せられた条件だった。

「アザミーこれで全部ー」

 真紅のダッフルコートを羽織ったモモが、落ち葉のこんもりと抱えて裏庭にやって来た。腕の中の葉塊を、アザミが積んだ落葉枯枝その他可燃物の山に放り投げる。
 凍える寒さを物ともしないモモのコートを、アザミはじっとりと湿度の高い目で見つめた。
 義体の中で今のところ一番若いモモは、見た目に反して妹気質でおねだりが上手い。一番物や服を持っているのは間違いなく彼女だろう。
 担当官に「何か必要なものはあるか?」と問われれば、義体は基本的に本当に必要な物しか求めない。『必要な物』ではなく『欲しい物』を要求するのを遠慮してしまうのは、性格を超えた日本製義体の性質だった。
 しかしモモは、『必要な物』ではなく『欲しい物』をちゃんと担当官に伝える。故にどんどんと物が増えていくのだ。

「……にしたってクラマさんも甘やかしてるよなー」

「クラマさんがどうかした?」

「どうもしない。寒いから早くしよう。他の三人は?」

 アザミはモモと一緒に行動していたはずの、ムラサキとタンポポ、そして坂崎の所在を問うが、モモは小首を傾げて、

「どこか行っちゃった」

「何だよそれ」

 溜息を吐いたが、それも束の間。
 何やらシルエットが丸い二人と、眼鏡の若い女が連れだって帰ってきた。
 ムラサキとタンポポは、かなりサイズの大きい迷彩柄のハーフコートで身を包んでいた
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