第三章
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第三章
「一つ褒めてやる」
「何を?」
「あのディミトリアスの演技だ」
その今やっている芝居の彼の役をである。
「見事だ。何も落ち度もない」
「桜森さんにそう言われると嬉しいね」
「だがそれだけだ」
そのうえでこうも言うのであった。
「他は全然駄目だ」
「あれっ、そうかなあ」
「何を褒めろというんだ」
あまりにもきつい言葉であった。
「御前に対して」
「それじゃあさ」
それはそれで。遼平はめげない。めげないでこう言ってきた。
「その練習する?」
「練習か」
「うん。もっと上手くなる為にさ」
そう言いながら自分の鞄から脚本を出してきた。言うまでもなく真夏の夜の夢の脚本であった。
「下校中でも。どうかな」
「いい心掛けだな」
彼女もそれを受けることにした。それで自分も鞄から脚本を出したのであった。
「では。はじめるか」
「うん。それじゃあ」
彼はすぐに芝居に入った。そうなると真剣であった。
「僕が優しい言葉をかけたことがあるかい?」
「そう言われれば言われる程貴方が好きになるの」
真琴もまた。完全にディミトリアスとヘレナになりきっていた。
「君を猛獣の餌食にさせてやる」
「どんな猛獣だって貴方程冷たくはないわ」
身振り手振りを交えながら下校中も芝居をする。その時二人は完全に演劇の中の恋人同士になっていた。当然真琴も。その時彼女はヘレナの目で遼平を見ていた。しかし自分ではそれに気付かないのであった。
公開前日の実際の衣装を着てのリハーサル。この時も二人はディミトリアスとヘレナになっていた。体育館の隅で衣装を着て事前の二人だけの打ち合わせと練習をしていた。
「ここはどうだな」
「うん」
ディミトリアスの服を着た遼平はヘレナの服の真琴の言葉に頷いていた。互いに立って向かい合いながら言葉を続けていた。
「そしてだ。ここは」
「こうだね」
ここで遼平は少し身振りを入れた。
「それでいいんだよね」
「その通りだ」
その遼平に対して告げる。
「いいではないか」
「やっぱり相手がしっかりしているからね」
「お世辞はよせ」
やはりクールなままでの言葉であった。
「御前の方がずっと上手だ。私は御前のレベルに達しようと必死なのだ」
「またまたそんな」
「それは事実だ。私もまだまだ努力が必要だ」
「じゃさ。今日も頑張ろうよ」
「わかった」
遼平の言葉に頷いてそのまま演技に入る。その謙遜の言葉とは裏腹にその演技は遼平に勝るとも劣らないものであった。杉岡先生もそれを見て思わず感嘆の声をあげた。
「いや、凄いね二人共」
「そうですよね」
その先生の側にいた大道具係の一人がそれに同意して頷く。彼もまた端役で参加している。部員の人数の関係で大道具係とは
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