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三色すみれ
第二章
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彼女は嘘がつけない真っ正直な性格である。だから感情もまた顔に出るのである。
「そう言われてもわからないのだが」
「僕はわかってるからいいよ」
 遼平はそのへらへらした顔で軽く述べる。
「真琴さんが僕を好きだってことがね」
「いい加減にしないと殴るぞ」
 半分本気の言葉であった。
「そんなことばかり言っていると」
「ほら、顔が赤い」
 むっとした真琴に対して言う。軽い突っ込みであった。
「やっぱりそうなんだ。桜森さんは僕のことが」
「あのな、御前はいつもそう言うが」
 本気で頭にきてきたので声を荒いものにさせてきた。
「私は御前のそうしたいい加減なところにいつも」
「あっ、二人共」
 ここでライサンダー役の二年の同級生が二人に声をかけてきた。
「何かな」
「何だ?」
 二人は同時に彼に顔を向けた。
「そろそろだから。演技に入って」
「了解」
「わ、わかった」
 やはり遼平は軽い返事であり真琴は堅苦しい挨拶になっていた。ここにも二人の個性の違いがはっきりと出ていたのであった。
「それじゃあ。やろうか」
「演技中はふざけるなよ」
「わかってるって。ハーミア、考えなおしてくれ」
 遼平はすぐにディミトリアスになった。見事な変身であった。
「僕の正当な権利を認めてくれ」
「まあ美しいですって?」
 そして真琴も。ライサンダーとハーミアのリハーサルの後で自分の役に入る。
「ディミトリアスの心を捉えるのにはどうすればいいの?」
 彼女も見事な演技であった。リハーサルだというのにもう本番のようであった。二人は芝居の間は見事にそれぞれの役に入っていた。そしてそれは部活が終わってからもであった。
「いやあ、お見事お見事」
 杉岡先生は大道具を手伝った後で生徒達を前にして彼等を褒めていた。
「俺からは何も言うことがないよ、本当に」
「そうなんですか」
「ああ。この調子でやってくれたらいい」
 笑顔で太鼓判を押す。かなり能天気な感じであったが。
「是非な。じゃあ今日はここまでだ」
「はい」
 こうして解散となった。真琴は一人で帰ろうとしたがそこに遼平がやって来たのであった。
「待ってよ」
「待つつもりはない」
 真琴は横に来た彼に冷たく言い放った。もう辺りは夕暮れも終わりかけで夜の闇が近付いてきていた。家々は黒に近くなっていて空は赤が濃くなり次第に黒くなっていた。何もかもが赤から黒になろうとしている時間であった。
 二人はその中を並んで歩いていた。といっても遼平が無理矢理ついて来ているのであるが。二人の前にあるそれぞれの影はかなり長くなっていてそれが消えようとしている夕暮れと街の電灯に照らされていた。
「さっさと帰れ」
「あれ、デートは嫌なんだ」
「断る」
 やはりまた一言であった。

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