籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
[10/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を生かしきり、袁紹軍筆頭軍師をたった五百の兵数で城から逃げ出させた化け物部隊。
そんなモノが、袁家を怨むあの幽州の地に向かっている……軍の采配を七乃に任せていた美羽にとっては、何一つ救いが感じられなかった。
心に沸くのは……もう近しいモノを失いたくないという些細な願い。
「な、七乃は……七乃だけは、助けてたも……なんでも、なんでも言う事を聞く、聞くから……お願い、なのじゃ……」
声を震わしながら、涙を流しながら、美羽は店長に弱々しい声を発した。
それを決めるのは店長では無いのだが、店長は言うつもりもなかった。
張勲を殺すか否かは覇王の頭脳達の判断一つ。無論、戦で負けるなど、店長は欠片も思ってはいない。
助命嘆願もしない。こちらはこの少女の命を助ける貸しがあるのだから。
もう十分だ。これ以上は言わずとも態度で示して貰おう。そういうように、美羽の顎から指を外して、店長はバンダナを額に巻き始めた。
「生き抜いて人を幸せにしなさい。私と共に、一生涯掛けて人を救い続けて貰います。血に濡れた喉で歌い続けるあの姉妹達のように、ね。あなたとは呪い呪われの関係になりますから、私の真名を預けておきましょう」
溜飲は下がるはずも無い。自分の大切なモノが全て傷つけられ、何もかもが壊されそうなのだから。それでも、この少女を生かすしかない。
同情はせず、しかし彼の想いが少し分かった気がした。
だからこそ、真名を耳元でぽつりと呟いて、無理矢理に笑顔を浮かべた。人を幸せにする事こそが、店長の幸せのはずなのだから。
「幸せになれ、とは言いませんし言えません。人としての幸せは生きている限り自分で探して見つけるモノです。私の料理で生きている幸せを感じてくれるなら……いいですが。
さあ、返答や如何に。是ならば……“すまいる”を」
恐怖と絶望でぐちゃぐちゃになった心を覗き込み、くしゃくしゃと顔を歪めて、美羽はどうにか教えられた通りに微笑んだ。
娘娘の給仕たるモノ、何時如何なる時も笑顔を……と。
「美羽……じゃ。心の内に、妾の真名をおさめて、くりゃれ」
コクリと頷いた店長に手を引かれて、震える膝に叱咤して立ち上がり……
「わ、我らが、主人は食事を楽しむ、全てのお方……」
所々しゃくり上げながら口上を述べる。
この身全てを、誰かに捧げる為に。もう自分は、嘗ての自分であってはならないのだから、と。
「料理は……あ、愛情。み、皆に、笑顔を」
袁家の宿命から救い出されても、自由に羽ばたくこと叶わず。
勝てば助けに来てくれる……そんな事すら、美羽にはもう思えなかった。逃げたいとも、思えなかった。
袁家が勝てば自分は死ぬ。殺される。それだけは絶対なのだと、店長がぎこちない微笑みの
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ