籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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な悲鳴が上がる。逃げ出そうと椅子から立ち上がるも、腰が抜けてそのまま床に落ちた。
見下す視線はまな板の上の鯉を調理するが如く。店長の心には怨嗟が燃えている。それでも、彼はやはり店長であった。
「逃がしませんよ、絶対に……絶対、逃がしてなんかやりません。しかし私はこの店の店長……料理人は、人を幸せにするモノです」
“料理は人を幸せにする一番の方法なんだ”
その言葉に、どれだけ救われた事か。人を自分の意思で不幸にするなら、彼はもはや彼に救われた料理人ではなくなってしまう。
店長は、グイ、と美羽の顎を指で摘まんで顔を上げさせ、無理矢理目を合わさせた。
細められた目は鋭く、冷たい。
「袁術には“死んで”貰います」
美羽は目を見開き、どうにか小さく首を振って否を示す。
一瞬だけ目を逸らした店長は、再び彼女の双眸を射抜いた。
「今より後……あなたは嘗ての知り合いに声を掛けられても、返事をしてはなりません。それが出来なかった時……この手で行う最後の料理をあなたと袁家の残党全てに致しましょう」
雛里達から与えられた策はそういったモノであった。店長が人を殺す事以外は、であるが。
一人殺せば覇王に処されるだろう。分かっていても、店長は決めていた。
少なくとも袁家を怨んで死んでしまった者達にだけ、こいつらを料理として捧げてやろう、と。
覇王や友達に残せる範囲でのせめてもの譲歩が、店と個人を切り離して責を負う事だった。
駒として切り捨てられるだけ、とは思っていない。自分の心にも、抑えがたい怨嗟が燃えているが故に。
「あなたはこの店の給仕、名を“みゅう”。袁家は覇王にどうにかして貰いますが、店の給仕を守るのは私の責任。だからあなたには生きて貰います」
美羽は震えて何も言えない。涙を流すだけでなく、粗相を行い床を汚してしまっていた。
店長は気付いている。誰かを守る為なら自分が死んでもいいと言い出しただろう、と。短い期間ではあっても雇っている間、美羽は一人ぼっちでも言いつけられていた事を守っていたのだ。店長が人を見抜く目で判断した限りは、大事な何かの為なら折れない気質があるのだと分かった。
鎖を付けるなら、今。それを間違えてはならない。
「約を違えれば張勲が死にます。あなたが自分で死んでも同じ事。一ついい情報を教えてあげましょう」
淡々と無表情で語られて、美羽の息が荒くなった。恐怖と絶望の楔が身の内に、徐々に沈められていく。
「幽州には“徐晃隊”が向かいました。一声掛ければ、怒りに燃える鳳凰はあなたの大切なモノを焼き尽くすでしょうね」
人づてに聞いている袁術軍の絶望の始まりの部隊。数が四倍の軍を一日で壊滅させ、十倍近い伏兵に大打撃を与えた上で将と軍師
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