籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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った。
こういった政治政略に店を巻き込まれるという事に……心底、店長はうんざりしていたというのに。
思考放棄してしまいたい所をどうにか繋ぎ止めて、美羽と直接話す事を決めたのだ。
見れば、ボロボロと涙を零して、ずっと口を手で押えている。心は痛むが、同時にこの少女と後ろで糸を引く女に殺意も湧いていた。
ただ……店長には軍の伝令から、否、雛里と桂花から一つの策を授かっていた。
「……あなたの後ろに居るのは、張勲、でしたか。その人は何を望んでいますか?」
穏やかに聞こえるが怒りの見え隠れする声音に、美羽は言葉を紡げない。
怖くて仕方なかった。此処には誰も知り合いがいない。ずっと一緒に居た七乃すらいない。美羽は初めて、孤独に晒されているのだ。
美羽の頭はそれほど良くないが、それでも名家の跡取りとしての常識は知っている。
小蓮が人質として送られた事も当然と受け入れ、その上で仲良くなろうと思う程だ。自分が人質になるのも、説明されれば納得出来るし予想出来た。
だから、七乃が此処に逃がしたのは自分の為だと分かっている。分かっているのだが……やはり怖い。
こうするしかないんです……と、涙ながらに見送った腹心の顔を思い出すと心が痛む。泣き喚いてもどうしようもなかった馬車の中で、忠義を以って此処に送ってくれた老臣を思い出せばまた泣きそうになる。
建業で共に過ごしていた友達を一寸だけ思い出した。
本当の意味で籠の中の鳥だったのは、小蓮ではなく自分。名家の跡取りとして外の世界を知らずに生きていたのだから、空の飛び方など知るはずも無い。故に、彼女は皆に願われた事だけを、口から出した。
「わ、妾が……生きる、ことじゃ」
嗚呼、と店長は息を吐いて額に手を当て、顔を顰めた。
臣下は何よりも主が生きる事を望んでいる。それがどれだけ……あの地に住まう者達と同じであるのか理解してもいる。
だが、手が震えて仕方ない。机に叩きつけてやりたくなった。理不尽に怒鳴り散らしてやりたかった。
――あなた方袁家のせいで、どれだけあの優しい方々が傷ついた事か……。
もうあの時間は戻ってこない。
夜半過ぎまでふらふらになりながら会合をする甘くて優しい王。酒と悪戯が大好きで、主であろうと友達のように接する武将。いつもいつもそばに侍って、怒られても笑顔で付いて回っていた腹心。
一人が死んだから、もう二度と手に入らない。あの地を取り戻しても、二度と戻っては来ない。
そして黒は……壊れてしまった。戻るかどうかも分からない。
――徐晃様の中から……あの楽しい大切な時間が消えてしまった。それがどれだけ、残されたあの二人を傷つけると思っている。
ギシ、と拳が強く握られた。幾分、血が滴り、ひっ……と美羽から小さ
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