籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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術さんの代わりに揚州を纏めていただけはある。
彼女は今の自分と何も変わらない。全てを敵に回しても、たった一人が幸せであればいいという異端者。
どうすれば七乃が動くかを考えると、所在が分からないままでは話にならない……が、ここからが雛里にとっての本番であった。
「この店……いい店ですよね」
不意にすり替えられた全く関係の無い話題。七乃の様子は、何も変わらない。
「建業にも支店を建てるそうです。いずれは大陸の主要都市全てに展開する、と意気込んでいらっしゃるそうで」
「らしいですね。何処でもこの店の料理が食べられるのは私も嬉しい……でも、他の店に此処の料理が真似され始めているって聞いてますよぉ?」
「仕方ないことでしょう。それほどこの店の料理は珍しい。ただ、味までは真似出来ませんし、一番初めに売り出したという事実がありますから……娘娘自体が廃れる事はないかと」
日常会話のようであるのに、ピリ……と少しだけ空気が張りつめた。
話の筋をずらそうとした事が分かって、雛里は僅かに表情を緩める。
「短い人生でこんな料理が食べられるなんて、いい巡り合わせですよねぇ♪ そんな始まりに居合わせられた私達は――――」
「情報の秘匿性が抜群で、権力からの介入は入りにくく、他勢力の細作や間諜でさえ忍び込めない……本当に、凄い店です」
言い終わらない内に雛里が被せ、七乃の口角が僅かに動いた。
無理やりにも程がある話の戻し方ではあるが、逃げる事など出来るはずもない。
「……何が、言いたいんですか?」
「いえ、我が主さえ足繁く運ぶお店ですし、この店の良い所を話してるだけですよ?」
ギュ、と音がした。慎ましく膝の上に於いた七乃の両の拳から。
あからさまに空気が張りつめた。兵達の気が引き締まり、剣呑な雰囲気が場を満たし始める。
「袁家は……いえ、田豊さんは、次に誰を切り捨てるんでしょうね」
そこでまた、雛里が話を変えた。優しく、されども冷たく微笑みながら。
――ああ、ダメだ……。私が夕ちゃんさえ信用してないのも、予想の内なんだ。
心の中で七乃は呟く。もう、この目の前のモノには全てがバレているのだと、その一言で確信した。
ニコニコと笑顔を浮かべていた七乃の表情が……ついに崩れた。冷たい冷たい、袁家の半分を動かしていた影のモノに。
彼女の大切なモノはたった一つ。大事な宝物が生き残る為ならば、世界の全てを敵に回しても構わない。
身の芯まで凍るような声音で、七乃が言葉を紡ぐ。
「……欲しいモノはなんですか?」
昏い瞳に見据えられて、雛里は可愛らしく声を上げて小さく笑った。これで漸く、本格的な交渉が出来る、と。
「……袁術軍を影で支えてきた張勲の使えるモノ、そ
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