籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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閉め、夜天の間には耳の痛くなるような静寂が訪れる。
ストン、と椅子に腰を下ろして小さく息を吐き、雛里はぼんやりと宙を見つめた。
「鳳統様……」
「私は大丈夫です。この街の滞在中にする事はあと一つ。少し疲れたので……明日、向かいましょうか」
ハキハキとした声で示されても、後ろの二人が向ける心配は晴れなかった。
ただ何も言わず、何も聞かず、彼らは頷きあってから部屋からゆっくりと出て行く。
――相変わらず優しい人達。あの人みたい。
広い部屋に一人の子された雛里の顔が曇っていく。
抱きしめてくれる人はいない。孤独によってか、冷たい風が心に吹き抜けた。
じっと周りを見渡せば、昔と何も変わらない部屋が此処にある。
からかうのはやめろよっ……と、甘くて優しい王の声が聴こえた気がした。
おやおや、恥ずかしがらなくともよいのでは……と、意地っ張りな昇り龍の声が聴こえた気がした。
そして、彼のからからと笑う声が……
「……っ」
耳を塞いだ。苦しくて、辛くて、痛くて、哀しくて。
自分の思い出にあるだけの幻聴なのに、まるですぐそこにあるかのようで、これ以上は耐えられなかった。
耳を塞いでも何も変わらない。彼が楽しく過ごしていた思い出がある限り。
じわりじわりと、心の底から悲哀が……否、寂寥が溢れてくる。
住み慣れた街を離れる時に感じたモノに似ていた。
何度か味わったことのある感情なのに、過去のどれよりも大きな寂しさであった。
震える身体。震える吐息。震える瞳。
揺らいだのは視界の全て。水の中のようにぼやけてしまい、何も見えなくなった。
「……帰りたい……っ……あの時に」
後悔しても、もう戻る事はない。どれだけ望んでも、進んだ時は戻らない。
前に進むしかないのは分かっていても、この大切な場所に来てしまうと、振り返らずにはいられなかった。
鳳凰は日輪の方角へと羽ばたこうとも、羽を休める場所が何処にも無い事を知り……独り……泣く。
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