籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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大切ですか……とあなたは問いかけましたね。その答えを言いましょう」
感情が読み取れない声を紡ぎ、雛里は微笑んだままで七乃を見つめた。
――聞くまでもないですね。でも、どうしてこの子は憎しみに染まらないんでしょうか……
七乃の問いかけに対しても、雛里は全く揺らがなかった。軍師としてでは無く、少女を傷つける一言であるはずなのに。
七乃には、それが不思議でならなかった。
徐々に、徐々に、雛里の瞳の色が、誰かを思い出して昏く落ち込んで行く。
――私が憎いのはこの人達じゃない。彼の進んできた道を全て否定した私の敵は……一人だけ。
だから、雛里は七乃に対する憎しみなど、欠片も持っていなかった。彼と相似でありながら矛盾を貫き通せなかった王だけが、雛里の憎む相手。
「大切ですよ? 世の平穏の為に自分を生贄として捧げようとするあの人が。自分の幸せよりも他者の幸せを願い続けるあの人が。自分が憎まれても、乱世の果てに生きて行く人々その全てを想い、人々を愛するあの人が」
想いは華琳や月、桃香と同じであれど、彼の在り方は三人とは全く違う。
外道非道の限りを尽くす悪の指標になれば世界が救われるというのなら、彼は喜んで悪に染まるだろう。自分の命を捧げるだけで世界が救われるのなら、彼は喜んで命を差し出すだろう。
雛里の知っている彼はそんな人。彼は生きている人が好きだった。そして死んでいった人達を想っていた。賊であろうと、敵であろうと、本当は殺したくなんかない甘くて弱い人間。
生きてくれ、幸せになってくれ……と、理不尽を翳しても懇願した彼は、自分にその想いが向けられても、なんら変わりなく命を使い捨てる。
狂っているのは彼一人。何時如何なる時も他者の為にしか生きていなかったのだから。
満足したのか、七乃は立ち上がり出口へと向かっていく。
「なら、あなたを殺せば世が平穏になるとしたら、黒麒麟はどうするんでしょうねぇ?」
ぽつりと、背を向けながら放たれた言葉。普通の声音で異常な事を、七乃はさらりと口にした。
殺気が溢れかえるが、黒麒麟の身体にとって雛里の命令は絶対。故に、兵士達は荒く息を吐いて耐えていた。
引き戸を開き、閉める寸前で……七乃は雛里の微笑みを見て、沸き立つ恐怖から固まった。
「それが乱世の果てなら、私の命を捧げてでも貫き通しますよ」
――そして……誰かに想いを預けてから、自分も死んでしまう。彼は皆が思ってるより強くない……
続きは言わずに、雛里は違う言葉を七乃に返した。
「今後の話は戦の後にでも……娘娘の二号店で行いましょうか。では、交渉ありがとうございました、張勲さん」
立ち上がってお辞儀を一つ。
意趣返しをされて苦々しく顔を顰めた七乃が戸を
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