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乱世の確率事象改変
籠の鳥は羽ばたけず、鳳は羽ばたくも休まらず
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隙間から流した涙を見て理解出来た。
 優しいはずのこの男から大切なモノを奪ったのは自分の血族で、それはもう、戻ってこない。
 笑顔溢れる店を壊しそうなのが自分自身と腹心なら、恨まれるのは当然。
 自分の為に命を賭けてくれたモノ達の想いも、人を幸せにする為に生きる人達の想いも、美羽は無駄にする事など出来なかった。

 こうして、蜂蜜が大好きな女の子は辛く苦しい乱世の舞台から、彼女に生きて欲しいと願う女の思惑通りに、降りる事が出来た。
 自由は与えられず、己が一生を他人に捧げるというカタチで。




 †




 お茶を嚥下する音が終わりの合図。
 誰か一人の為を想い続ける二人には、もう話す事は何も無かった。
 官渡に対する外部戦略は、七乃からすれば二の次。一番大切なモノは守り切れる……目の前の少女が約を守るならば、だが。

「最後に一つ……いいですか?」
「なんなりと」

 交渉事の最中、何一つ感情を表すことなく雛里は微笑んでいた。
 自分と同じに歪んでしまった少女に、七乃は同情などしない。ただ、純粋な興味が湧いていた。

「大切ですか? 黒き大徳、徐公明が」

 瞬間、雛里が片手を横に上げた。
 後ろの兵士の二人が、あらんばかりの殺気を浮かべて七乃に飛びかかろうとした……が、雛里の制止にどうにか立ち止まった。
 袁術軍の兵士は反応したが、その怨嗟溢れる瞳に腰が引けて情けない構えになってしまっていた。

「抑えて……抑えてください。“命令”です」

 噛みしめる歯の隙間から吐息を漏らして、睨みつける目から涙を零して……それでも黒麒麟の身体は雛里の命に従い、元の立ち位置に戻った。
 殺意があった。怨嗟があった。絶望があった。
 欠片も情報を与えてやらないと雛里達は考えていたのに、七乃の問いかけ一つで彼の情報を小さいながらも奪い取られた。

――なるほど……黒麒麟にナニカあったんですね。徐晃隊の兵士がこれほど怒り狂うようなナニカが……

 それまで無表情であった七乃は、にっこりとほほ笑んで雛里を見据える。
 意趣返しが少しでも出来て、澱みが僅かに晴れた気がしたから。

「軍が出払っている華琳様の街に何か仕掛けを施しているのは分かっています。あなたが何も手を打たずに敵の真っただ中に大切なモノを送るわけが無いですから。交渉は此処で終わりとします」

 冷静に、冷徹に、雛里は微笑みを崩さずに七乃に語りかけた。
 七乃はぞっとする。その冷たい眼差しは、全てを高みから見透かすかのよう。
 自分は美羽にも七乃にも危害を加えるつもりはないが、そちらの思惑は分かっている。あくまで互いの利を考えての交渉をしていたのだから、他の事を話すならもう終わり……そう言い切った。

「あの人が
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