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無欠の刃
下忍編
おぞましい
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たのか!?」

 その言葉に何の返答をしないことこそが、何よりの返答だった。
 鼓膜。振動を感知し、脳に音を伝える最も重要な機関であり、比較的、破壊しやすい器官でもある。耳かきをして破いたことがあるという人間も少なくはないだろう。この場といえ、細い棒状のもので…たとえば、木の枝を耳に突っ込んでかき回せば、破ることだって可能だ。
 しかも、鼓膜はほかの器官と違って、早ければ一週間。遅くても一カ月あれば治るのである。破壊しても治る、代替がきく。これほど効率的な手は存在していないともいえる。
 多由也の幻術は音だ。音波ではないので人体にはさほど影響は出ず、鼓膜を通じて脳にたどり着いて初めて影響が出るのだ。だからこその手だともいえる。
 いえるが、だが。
 だが、だからといって、普通、破けるものだろうか。自分の鼓膜を、治ると言ってもそんなにあっさりと?
 ぞわりと、背筋に寒気が走る。
 おぞましい。何だこの人物は。
 多由也も大蛇丸に仕えるものだからこそ分かる。大蛇丸も目の前の子どものようなおぞましさを持っている。他者を人間とすら思わない。自分のことも利用すらする、あの人物を見ているからこそ、カトナのおぞましさは、いくつか緩和されているようにも感じれる。
 けれど、カトナのおぞましさはそれをとうに超える。気持ち悪い。カトナは自分に異様に厳しい。自分を犠牲にすることは罪ではないと感じているような、自分が犠牲になることこそが報われることのような、そんな錯覚をしているかのような気持ち悪さがある。
 大蛇丸様が気に入るわけだと思いながら、多由也は自分の腰に束ねた巻物を見る。
 奥の手の一つだが、ここで使ってしまっても構わないだろう。今の目の前の子どもは、音が聞こえない。如何に分析能力が高かろうと、判別するための条件が潰されている状態で出来るだろうか? …出来る筈がない。ならば、使うべきだ。
 幸いにして、カトナの味方である少年と少女たちは、同じく音の里出身である三人にまかせてきた。強くもない、ただの雑魚だが、足止めくらいはできるだろう。だが、長くはもたないだろう。サスケの強さは未知数であり、サクラは平凡の域を出てないらしいが、下忍にしてはレベルが高いらしいので、過度な期待はしない。
 今の内にある程度、呪印を活性化させ、これからの中忍試験の結果に影響を与えるのが多由也の今回の仕事だ。このままではその任務は遂行できない。それは困るのだ。

 大蛇丸様の使命は絶対に遂行せねばならない。それは命に代えてでもしなければならないことだ。…なんのために、どうしてそこまで大蛇丸様に仕えなければいけないかなんてことは、どうでもいいのだ。ただ、指名を遂行するのみ。

 ばっ、と勢いよく巻いておいた巻物を引き抜こうと腰を見やり、彼女は咄嗟に横に飛んだ。

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