閑話ー聖槍と聖剣の英雄ー
71.霜の巨人
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今助けてやっかんな!、とクラインは叫ぶと、左腰の愛刀を握った。次の瞬間、居合い系ソードスキル《ツジカゼ》が炸裂し、氷柱の檻を砕いた。
再び刀を煌めかせ、両手足を束縛していた氷の鎖を断つ。
「……ありがとう、妖精の剣士様」
「立てるかい? 怪我ァねえか?」
しゃがみ込み、右手を差し出す刀使い。
「ええ……、大丈夫です」
頷き、立ち上がった金髪の美女がよろけるのを紳士のようにクラインが支えた。
「出口までちょっと遠いけど、一人で帰れるかい、姉さん?」
「…………」
その問いに対して美女は眼を伏せてしばし沈黙した。
カーディナル・システムが備える《自動応答言語化モジュール・エンジン》とは、決められた受け答えをするというパターンリストの超複雑化したものだ。高度なNPCでは、プレイヤーと普通に会話をやってのける奴もいる。
それのわかりやすい例がキリトとアスナの娘であるユイだ。その域には及んでいないNPCとの会話の多くは、プレイヤーたちが正しい問いを探さなければいけない。
今回のケースもそうだと思ったが、NPCはクラインに新たな問いを口にする。
「……私は、このまま城から逃げるわけにはいかないのです。巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝を取り戻すために城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり捕らえられてしまいました。宝を取り返さずして戻ることはできません。どうか、私と一緒にスリュムの部屋に連れっていって頂けませんか」
どう考えてもクエストが始まるときのNPCの台詞である。
「お……う……むぅ……」
今度ばかりは、武士道に生きる男クラインも即答はできなかった。数メートル離れた場所から見守るキリトの隣で、アスナが小さく囁く。
「なんか、キナ臭い展開だね……」
「だなぁ……」
頷き返したキリトを、振り向いたクラインが情けない顔つきで見て、言った。
「おい、キリの字、シュウ公……」
「俺はかまわねぇけどどうするよ、キリト?」
大きなため息をついた後にキリトは答える。
「……解った。こうなりゃ最後までこのルートで行くしかないだろ。まだ百パー罠って決まったわけじゃないし」
その言葉にクラインはニヤリと笑い、美女に威勢良く宣言した。
「おっしゃ、引き受けたぜ姉さん! 袖振り合うも一蓮托生、一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」
「ありがとうございます、剣士様!」
「ユイに妙なことわざ聞かせるなよなー」
ぶつくさ言いながら、キリトがNPCの加入を認める。視界の左上から下に並ぶ、仲間たちのミニHP/MPゲージの末尾に、九人目のゲージが追加される。
美女の名前は【Freyja】となっていた。フレイヤと読むのだろう
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