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月の通り道
月の通り道
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。優はその視線に気が付きながら、月明りの下まで進み出る。
 相手はそこで、近づいてきた人物が誰かを理解して口を開いた。
「あ、す、……峠!?」
「ん、深江か?」
 優もそこにいた人物を確認する。同じクラスの深江菜雪、一番小さく、活発な女子だ。
真夜中に寮を飛び出すなんてやんちゃは、男子がやったものと思っていた優は、少々驚き目を見開いた。
優の突然の登場に、向こうも困惑しているらしい。
「なんでここに……」
 自分がしようと思っていた質問を先に言われてしまい、優は素直にそれに返答した。
「窓から外を見ていたら、人が歩いているのが見えた。もし生徒だったら規則違反であり、それは寮長として確認、注意すべきことであるし、もし夜間外出に伴って何かしらの問題行動をしているのであれば、それも同様に確認しなければならないんじゃないか、と思っただけだよ」
 淡々と、事務的に述べられた口上に、菜雪は半ば呆れたように「……はあ」とだけ返した。
「深江は?」
 逆に優からなされた質問に彼女は「ああ、いや」と我に返ると、人差し指を真上に向けた。
「別に何ってことはないんだけどさ」
つられて優も顔を上げる。
「ああ……」
 見えたものに、彼は思わず感嘆の声を漏らした。そこにあるのは星空。視界を遮る高い建物も、木々もないこの場所に、大きく広がる暗闇と、その中に、本当に小さく、それでも確かにその存在を浮かばせているたくさんの星たち。
「窓から見てて、きれいだなあ、と思ったから」
「それで飛び出してきたのか?」
「うん、外出た方が見やすいじゃない」
 優は見上げるのをやめ、後ろめたさも何もなくそう言い切った彼女の方を向いた。その瞳はまだ真っ直ぐに、星を見つめている。
 優はその純粋さに触れたとき、反対に自分の中の何かが、ふっと曇ったのを感じた。彼は力のない声で「……へえ」と零すと、何の前触れもなく、まるで一枚の板がそうなるように背中からその場にゆっくりと倒れた。地に生える草が彼のことを受け止めて、どさっという鈍い音がした。
「え、何……」
 視界の隅で倒れる優を捉まえた菜雪は、彼の突然の行動の意味を測りかね、訝しげに尋ねる。
「確かに、きれいだなと思って」
「あ……、そう」
 その返答に納得できない菜雪は、しかし優はこれ以上説明をしないだろうと分かったのか、その場に座って空を見上げた。
 優は寝転がって星を見る。このあたりは学校以外にほとんど建物がなく、だから本当に暗くて、小さな明かりがここまで良く届く。 
それは優も知っている事実だし、実際部屋にいるときも、窓を開けて体を乗り出し、星を眺めたことも何度もあった。
 けれど、一度として「外に出よう」と思いついたことなどなかった。わざわざ外に出なくても見えるし、そこまでするのは億劫だと思っ
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