暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫
≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
≪イルファング・ザ・コボルドロード≫ その参
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HPは減っていないのだが、過労死寸前の脳味噌を休めるためにも数十秒は欲しい。キリトの隣にはインディゴが立っていた。こちらに走ってくる俺を見てインディゴは心配そうに話しかける。

「だ、大丈夫なの?」
「いや、頭が痛い。脳味噌が悲鳴を上げてるよ。でも成果はあったな、見ろよ、イルファングは危険域(レッド)に突入したぜ」

 俺の言葉の通り、イルファングのHPは、俺の一撃で七割から三割弱、そして今エギル達のフルアタックでふらつく怨敵のHPを削り、ついに三割の危険域にまで追い詰めた。

 インディゴは苦々しい表情を見せ一瞬顔が暗くなる。横に結ばれた口から複雑な感情を読み取れる。絞ったような声で俺を問い詰める。

「どうして? どうして貴方は戦うの? どうして、戦えるの? ボスはあんなにも強くて、情報もないのに、貴方は、貴方はカタナスキルなんて、知らないのに……」

 その手の問いは、俺にとってはもう何年も前から答えが出ている。思えばその問いは、俺の人生の象徴とも言える。自分に言い聞かせるように独り言のように俺はその問いに答えた。

「……俺が戦えるからさ。勝てるから戦うんじゃない、勝ち抜くために戦うんだ。俺が欲しいのは目の前の勝利じゃなくて、≪常勝≫。これだけなんだよ。……ここで逃げたら≪勝ち≫は永遠に来なくなっちまう。そう思った、それだけだよ」
「……貴方は強いのね。私には、出来ないわ」

――『できない』、だなんて。そんな諦めの言葉は好きじゃない。『できない』、じゃなくて君のは『したくない』だろう?

「――――できない、なんてことはない」
「……」
「どんな事でも、やらなきゃできない。ましてや、行動ができないなんて、言い訳に過ぎないんだよ」

 インディゴが、コボルト王を見る。彼女の横顔には先程までの感情はなかった。

「……行ってくるわ」
「うん」
「本当に、ありがとう」
「どうも」
「終わったら、話したいことがあるの」
「ああ」

 藍色のナイトが片手剣を抜き、カイトシールドを構えた。離れていく足音を背に、目を瞑り五感から獲れ得る情報をすべて放棄し、俺は脳を休ませる。深呼吸のたびに鋭い引き裂かれるような痛みが段々と和らいでいく。もしかしたら現実でも深呼吸はしているのかもしれない。≪走る≫や≪剣を振る≫は現実で反映されなくても、常時する生命活動である呼吸なら連動するんじゃないだろうか。

 十五度目の深呼吸でやっと脳の痛みが消えたころに、ドスンという重い音を俺の脳が認識した。前線を見れば、残存HPが一割を下回ったイルファングが地面にうずくまるように伏せている。ぐるうっと喚き、立ち上がろうとするが、システム上あの状態では立ち上がれない。モンスター特有バットステータス≪転倒(タンブル)≫状態。

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