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Magic flare(マジック・フレア)
第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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んな非常時だからだ。俺たち以外の誰が電磁体の幽霊どもに対処できると思って――」
「いやいや、そうじゃなくてですね。民間企業の一従業員が何でそこまでしなきゃいけないんだって聞いてるんですよ」
「はぁ?」
 岸本は顔に動揺を走らせながら、なお強気で口を開く
「お前なに――なん――何言ってんだお前。仕事を何だと思ってるんだ?」
「いやだからさぁ、仕事なら何か手当が出てもいいわけでしょ? でもそういう話ないじゃない。勤務シフトだってあってないようなもんだし、ね、岸本さん。あんたウチらの出退勤管理してるの?」
「そういう金の話なら、上役が」
「上役じゃなくてぇ、あんたが何をしてるかって聞いてんだよ。上役ってねぇ、いるの? 今。いないでしょ? 全然姿見ないけど? おおかた死ぬか逃げるかしたんでしょ。なんでうちらがどうせただ働きにしかならんのに、ここに縛られなきゃならんのですかね」
 岸本が怒りに顔をどす黒くして絶句している間に、警備員は馬鹿にしたように短く笑い、ドアに歩いて行く。
「やる気がないなら出てけってあんた、今まで散々偉そうに言ってたよな。そうさせてもらうよ。大阪に家族がいるんでね」
「出ていく? 勝手なことを言うな! 契約期間が」
「うちはあんたに雇われてるわけやないんでね」
 本当に出て行った。
 気まずい沈黙の後、若い女性の特殊警備員が立ち上がり、顔を背けて呟くように告げた。
「すみません……私も実家の両親が心配してますので」
「おい」
 出て行く。ソファから、デスクから、ぞろぞろと同僚たちが立ち上がった。本当に様々な年代の男女が集まっていたのだと、クグチは今更気付く。様々な理由で守護天使を手にすることなく、居住区の平和な暮らしから弾き出されていた人間たち。
「待て。おい、ちょっと待てよ」
「私らにも心配する相手がいるんですよ」
 ごま塩頭の老人が言った。
「あんたの奥さんとお子さん、今頃泣いてなきゃいいですな、岸本さん」
 老人が通り過ぎ、岸本は殺気とともに拳を肩の上まで持ち上げた。殴る気だ。その後ろ姿をクグチは冷ややかに傍観した。岸本は結局老人を捕まえも、殴りもしなかった。特殊警備員たちは去り、ドアが閉まる。拳は役目を果たすことなく、力なく下ろされた。
 部屋に岸本とクグチ、島とマキメが残った。
「残るの?」
 クグチはマキメに頷く。
「マキメさんこそ。いいんですか?」
「私の家族はずーっと南の方にいるからね。私を心配するような人たちじゃないし。私も別にどうでもいいからさ、あんな人たちさ」
 複雑な家庭らしい。
「明日宮君は家族いないの?」
「……姉が」
「えっ? 本当?」
「もう、いませんから」
「ごめん」
「いなくていいんだ、あんな奴ら」
 岸本がぶつぶつと自分に言い聞かせている。
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